首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

『誰よりも狙われた男』

もの凄い映画に出会ってしまった。『誰よりも狙われた男』(原題:A MOST WANTED MAN)。

スパイ映画というジャンルがあるのだろうか。舞台はドイツ・ハンブルグ。古くからの貿易港、そして9.11実行犯と深いつながりを持つ街だ。

主人公・バッハマンはドイツのインテリジェンス・オフィサー。政府の裏仕事を担う。表仕事たるドイツ内務省、ドイツ法の下で働く弁護士、そして米国CIAとの駆け引き。その緊張感に一気に引き込まれた。政府内で働いたことがあれば、そして海外当局とやりあった経験があれば、この映画は相当のリアリティがあると感じるはず。

この主人公の生き方に共感できる。彼は常に大きな獲物を狙う。テロ撲滅・世界平和という究極の目標を達成すべく、より中心に近い本質的なターゲットを押えようとする。

大きな正義、長期的に見た効用最大化。そんな目線を持ち、粘り強く仕事をする主人公。その姿にどうにもシンパシーを感じざるを得ない。打つ手打つ手が実に考え抜かれている。人数こそ少ないが、自分の部署のメンバーたちとの信頼関係も抜群。見た目はイケてないが、ホントにカッコいいぞバッハマン!

近頃は短期的なリターンが求められることが多い。手近な目標をてっとり早く取り押さえる。その方がわかりやすいし、リスクは小さい。とにかく目に見える成果が欲しい、その先のことはどうでもいい、という仕事。そんなのは下らないと思ってしまうんだよなー、僕も。

そして最後は裏切られる。成果は全部取っていかれる。これも世の中ではよくあることだ。僕も沖縄に来てからはこればかり。画面一面に広がる悔しさ。ああ、気持ちは分かる。
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エンドロール、主人公を演じた「フィリップ・シーモア・ホフマンに捧ぐ」とあった。アカデミー賞主演男優賞の栄誉に浴した当代きってのスター。この2月、薬物摂取による急性中毒で亡くなったという。享年46歳。

僕と全く同じ世代。強い親近感とある種の嫉妬を覚える。ご冥福をこころからお祈りする。この映画に出会えてよかった。