首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

第78回日本オープン選手権

なんともお粗末なセッティングだった那覇開催から1年。楽しみにしていた日本オープンをテレビで観戦する。昨日の最終日が大雨で今日に順延。最高のコンディション、しびれる熱戦にグイグイ引き込まれた。

もちろん注目は首位スタートの小田孔明。「死ぬ気で勝ちに行きます。」と涙を浮かべて宣言した男の生き様をリアルタイムで見れる。見る側もおのずと気合が入る。

今も小田の脳裏に焼き付いているのは相模原GCでの07年大会だ。当時未勝利だった小田は単独首位で最終日を迎えながら“80”を叩いて結局8位フィニッシュ。「あの時は若かった。まだ勝てるゴルフをしていなかった」と初優勝のチャンスは日本オープンという分厚い壁に跳ね返された。


それでも、この敗北は「今の僕のゴルフは相模原の教訓からきている」と自分のゴルフを見つめなおすきっかけとなった。ツアーを代表するトッププロとして成長を遂げ、迎えた今大会。なみなみならぬ思い入れを持つ小田に、07年大会のリベンジをする絶好のチャンスが訪れた。


「絶対勝ちたい。明日は死ぬ気で勝ちに行きます」。ホールアウト後のインタビューでそう語る小田の目には、思い入れの強さゆえ感極まってうっすら涙がたまっていた。「精神的にもゴルフの調子もピークに持ってこれた。これで負けたら言い訳はできない」。あふれだしそうになる感情を必死に抑えながら全身全霊で悲願のオープン制覇へ挑む。



正午から始まった中継、孔明が最初に映ったのは7番ホールの第2打地点。ティショットが左に大きくぶれたのだろう、松の木の根元、最悪の場所にボールが止まっていた。リカバーも失敗。表情も固く、今日のプレーの不調を感じさせる。このホール、本日2つ目のボギー。実際には晴天なのに、彼のまわりだけ暗雲が立ち込んでいた。

同じ最終組は小林正則。孔明と同じ高校、2年先輩にあたる。3打差でスタートした小林はこの7番、続く8番で連続バーディ。前半でトップの孔明に並んだ。小林のパターは僕と同じ握り方のクロスハンドグリップ。まず右手で握り、左手を下にして握る変則的なスタイルだ。この夏までパッティングが絶不調で、すがるようにこのクロスハンドにたどりついたとか。同じ異端のスタイル、何ともシンパシーを感じる。

小林は10番でも上りのスライスラインをきっちりと打ちきってバーディ。孔明は逆に決め切れず、トップの座を明け渡す。その後16番までは手に汗握るマッチプレー状態。そして迎えた17番221Yショート、ここで事実上勝負が決まった。

ピンはグリーン左手前に切られている。手前には深いバンカー。先に打った小林が花道からピン下にきっちりと乗せる。こうなると追う孔明はデッドに狙わざるを得ない。一直線に打ち出された球は、ほんの数センチの差でバンカーに捕まってしまった。うつむく孔明

残ったのはエッジからほとんど距離のない、難度の高いバンカーショット。落とし所を何度も確認したが、結果はグリーンとの間の狭いセミラフに食われてしまった。打った瞬間「弱い」と叫ぶ孔明。「ダメだ」と首を何度も振りながらバンカーを出た。これを見た小林は明らかに2パット狙い。ファーストパットの上りをきっちりと寄せて、お先のパー。

これを入れなければ終わる、というフリンジからの上り3.9mのパット。ググッとスライスした球はカップ3つ分ほど右に外れていった。ああっ、と身体を伸ばし、腰に手をやる孔明。うつむき、口をギュっと真一文字に結び、首を振った。最終ホールを前に2打差。万事休した。

最終18番ロングホール、小林は攻めのゴルフを貫く。握ったのはドライバー。右に出た球はクロスバンカーにつかまってしまった。グリーンエッジまで227Y。左手前には池が大きな口をあける。しかしこの男は果敢にグリーンを狙う。3番アイアンから繰り出された球は花道に落ち、グリーンまでトントントンと上ってきた。いやあ、素晴らしすぎるでしょう。この場面でスーパーショットの2オン。鳥肌が立った。

笑顔でグリーンに上がってくる小林。2パットで余裕のバーディーフィニッシュ。3打差をひっくり返し、逆に2位に3打差つけての10アンダー。日本オープンの勝者にふさわしい、堂々たるゴルフだった。

「競ってたんでね、その分僕も逃げないでいいプレーできたんでね、孔明には感謝してます。」試合後のインタビューの言葉には、ともに命をかけて戦った熱戦の余韻があった。