首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

桜並木/スガシカオ

首里に移り住んで、ちょうど5年になる。

5年前、咲き始めた桜に後ろ髪をひかれながら、この地に降り立った。

とにかく、桜の花が好きだった。下宿のそばにある哲学の道。だれも歩いていない深夜、満開の桜をひとり占めした時から、この花に対して特別な感情を持った。

会社の寮があった中野。そこにも美しい桜並木があった。買ったばかりの初代ユーノス・ロードスター。屋根を上げて何度も何度も通った。近くの新井薬師にも美しい桜があった。まだ元気だった祖母もこの桜を眺め、水掛けのお地蔵さまに手を合わせていた。
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今日は「桜並木」という曲を思い出した。

はじまりの朝はいつでも
グズついた空模様


慣れない制服も黒いクツも
破りすてたいくらいに重い


ぼくの目の前にただ広がるヤミと
無理矢理えがき出した光


ねぇ もうバスが出る時間だよ

新しい制服を着て、新しい学校へ向かうのだろうか。
それとも、スーツを着て、初めて出勤する日のことなのだろうか。

今朝の那覇もグズついた空だった。
これは偶然なのか、それとも必然なのか。

誰にも見せない心は
小さな痛みを抱いた


美しくあろうとはしたけど
憎しみにふるえてしまった

ああ、いいな。
昔のスガシカオは、よくこういう詞を書いたな。

何か自分の中を見透かされたような、そんな気持ちにさせられたな。

高架下をくぐりぬけて 誰もいない堤防に沿って
ぼくがえらぼうとしている未来へ


桜並木をくぐって 心にすっと日が射した
遅刻してしまうと かすんでしまうから

ああ、そうか。

会社へと続く道。それは「ぼく」がえらぼうとしている未来なのだ。

心にすっと射した日の光。それは、遅刻してしまうだけでかすんでしまうくらい、はかなくて弱いものだ。

だからこそ「ぼく」は、今日だけは遅刻しないように、雨の降るおもろまちを早足で歩いたのだ。

目の前にただ広がるヤミのなか、無理矢理えがき出した光に向かって。