ピアノを伯母に
先月は寝込んでいて、まったく元気のなかった伯母。直前に重い病気も見つかった。もう何回あえるのだろうと、重い気持ちで部屋を出た。
ところが今月。部屋を訪ねると、ちょこんとソファーに座っているじゃないか。張りのある声でとにかく元気。
こんなに元気ならば。「下にピアノでも弾きに行こか?」と聞いてみた。
車いすに乗せ、看護師さんの許可をもらう。「久しぶりに下でピアノ弾いてもいいですか?」。「わぁ。じゃあ皆さんにも声かけます」と看護師さん。いやいや、もう今日は2、3曲だけ伯母に聴いてもらうですから。
1階のラウンジにはカワイのグランドピアノがおいてある。同じ老人ホームに暮らしていた祖母がいたころは、見舞いのたびにピアノを弾いてやったな。
おじいさん、おばあさんたちはピアノの生演奏をとても喜んでくれる。祖母にピアノを弾いていると、いつも知らぬ間に人が集まってきて大変なことになった。「どこそこのお孫さんが弾けるから」と紹介され、大掛かりにバイオリンとのデュオコンサートをしたこともある。
何年かぶりにここで弾くピアノ。懐かしいな。調律がされていなかったのは残念。
久しぶりに伯母は体調がすこぶるよく、演奏をとても喜んでくれた。手をたたいて、時に口ずさんで。
3曲ほどで止めるつもりだったのに、やっぱりギャラリーが続々。「もっと、もっと」といわれ、結局小一時間弾いてしまった。なんだかんだで、祖母が好きだった曲ばかりになってしまったかな。以下は備忘用。
- 七夕(笹の葉さらさら)
- 海(海は広いな大きいな)
- 荒城の月
- 花(春のうららの隅田川)
- 影を慕いて(古賀メロディ)
- 月の砂漠
- 椰子の実(名も知らぬ、遠き島より)
- この道(この道はいつか来た道)
- 里の秋
- もみじ
- 峠の我が家
- 富士山(頭を雲の上に出し)
- 夕焼け小焼け
- 蛍の光
- 仰げば尊し
おじいさんも、おばあさんも、みな頷きながら、手をたたきながら聴いてくれる。涙ぐんでいる人もいる。あるおじいさんは「頭と心が揺さぶられました。ありがとう」といって手を握ってくれた。
こちらも弾いていて、聴いている人の思いがビンビン伝わってきた。確かに、TVやCDと生演奏はぜんぜん違うと思う。ピアノはすごい楽器だと改めて思う。
「ピアノの先生ですか?」と聞かれた。いやいや、田舎の普通のサラリーマンですし。あと、「蘇州夜曲」というリクエストに応えられなかった。タイトルは知っているけど、曲を聴いたことがない。今度までにyoutubeで耳に入れておきます。
伯母が元気でいてくれる限り、ここでピアノを。