『思い出のマーニー』
僕にとって、これが初めてのジブリ作品。ええ、「千と千尋」も「もののけ姫」も、「ナウシカ」も「トトロ」も見たことがありません。
冒頭、映画のタイトルが表示される場面。列車に乗り、田舎へ療養に向かう主人公・アンナ。特急・スーパーおおぞらが札幌駅を出発する。広大な湿原の中を軽くカーブを描いて疾走する姿を俯瞰する画。
実に美しいじゃないか。アニメってこんなに綺麗なのか。音質も極めて上質だ。期待が膨らむ。
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素晴らしい映画だった。
「あなたのことがだいすき。」「わたしもだいすきよ。」
「お願い、赦してくれるといって。」「もちろんよ。赦してあげる。」
アンナとマーニーの間で交わされる言葉がなんと美しいことか。大人になると、声にして、口に出して言うことがなくなってしまう言葉だ。
いつの間にか黒いカビが生えてしまった僕の心。毎日の憤りが、腐った銀行への恨みが、汚い言葉になって口について出る。そう、「クソ」だとか「カス」だとか、そんな言葉。
主人公たちの美しい言葉の響きに触れ、無条件に心が動かされた。カビの生えた心が浄化されていくのが分かった。思いがけずに得られたカタルシス。
「この風景、いつか観たことがある。」「この本の内容、もうすでに知っている。」
夢の中で、あるいは初めて直面した状況を前にして、そう感じた経験は誰にでもあるだろう。僕の場合、そう思うことが何だかとても多かった。
だからこの映画はとても共感できる。そして、とても救われた気持ちになった。
もの心がつく前に、自我が確立する前に、自分自身が体験してしまったこと。知らぬ間に心の底に沈んだ思い出や記憶というものが誰にでも必ずある。
ほとんどの場合、その正体はわからない。日々の生活でふと気づいたりする。時折、夢に出てきたりする。何だかわからない幸せな感じとか、どことない不安や恐怖とか。「なんだかそういうもの」として自分のなかで何とか折り合いを付けて毎日生きている。
アンナは偶然に、いや奇跡的に、その正体を知ることになった。完璧なハッピーエンドだ。ああ、本当によかったね、アンナ。心からそう思えた。
この春から見た映画は20数本。エンドロールで席を立たなかったのはこの映画が初めてだ。尾瀬の朝もやのような、心に沁みるテーマソング。満たされた気持ちで、明るくなったホールを後にした。