首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

『怪しい彼女』

週末に見貯めた映画の感想をいくつか。まずは『怪しい彼女』(原題:수상한 그녀、英題:Miss Granny)という韓国映画

お年寄りが老人サークルで鑑賞したら、みな大喜びだろう。誰にでもある回春願望の映像化。それ以上でも、それ以下でもない。

ストーリーも突っ込みどころが満載。「きっと何かもっと深いメッセージがあるだろう」と思いながら観ていたが、ラストシーンでずっこけた。女も男も、夢見るのは結局回春ばかりなり、と。

主人公、実際の老婆としても若返った姿でも、まあそれは口が悪い。露悪が過ぎて、見ていて気分が悪くなる。

いくら自分の息子が愛おしくても、いくらなんでも嫁に厳しく当たり過ぎだろ。男尊女卑なのか知らないが、同じ孫でも姉には冷たく弟には甘過ぎる。あと、元・使用人だったというお爺さんに対して無遠慮が半端ない。これって、韓国人の感覚だとごく当たり前に受け入れられるのだろうか。少なくとも僕には無邪気に笑うことができないシーンばかり。

「なんだか気が滅入るだけだったな。」そう思って直後は感想を書けずにいた。「もう韓国の映画は見たくないな」、とも。

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しかし、時間を置くにつれ、なぜか僕の気持ちが柔らかく変化してきた。

ある一つのシーンが心に残って離れないのだ。シンガーになった主人公がテレビの歌番組に登場。そこで彼女はバラードを歌う。そこに挿み込まれるセピア色した回想シーン。有難いことに、Youtubeに上がっていた。その場面は1:13あたりから始まる。

第二次世界大戦朝鮮戦争後の混乱の中、主人公の夫は出稼ぎでドイツへ赴く。外貨獲得のために国策として促した厳しい炭鉱労働だ。大きくなったお腹を抱え、空港で手を振って見送る主人公。

赤ん坊が生まれたばかりの主人公に届いたのは、一枚の死亡通知書だった。極貧の生活。市場で路上に落ちた野菜くずを拾い、ドジョウ屋の鍋洗いをして口を糊する日々。息子が病に伏した時は、医者に診せる金もなく、ただ抱きしめて祈るだけだった。

曲のタイトルは「白い蝶」。主人公と同じ世代の韓国人なら、誰もが知っている名曲なのだとか。苦しい時代に耳にし、口ずさんだ曲。歌い終えて、主人公は一筋の涙を流した。

知らぬ間に、僕は自分の祖母の姿を重ねてしまったのかもしれないな。先の戦争で、祖父は若くして国に徴兵された。戦場へ向かう途中、船が敵の攻撃を受けて戦死。祖母は教師をしながら、同じく女手ひとつで母を育てた。

つらい人生だったとは一度も言わなかった祖母。その人生があって、僕の今がある。祖母が何枚か持っていた祖父の写真も、あのシーンのようなセピア色だった。