首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

親友Kのクリニックで

今日は奈良にある親友Kのクリニックへ。

彼とは河合塾で出会った。同じ大学の経済学部に進んだが、彼は在学中に思うところがあって中退、そして今は腕利きの整形外科医をやっている。予備校生というどん底の時代から始まった関係は、どんなに時間が経ってもお互いに飾ったりすることを必要としない素顔の付き合いになる。親友は去年も夫婦で沖縄に来てくれた。実はうちの母と妹はこちらのクリニックでお世話になっており、離れて暮らしている僕としては彼をその面でも相当頼りにしている。

そして今日は親友のクリニックへ。今日は僕は患者としてではなく、ある「医療界では画期的と思しきプロジェクト」の事前調査に訪問したのだった。

いつも彼とはお互いの業界のことを忌憚なく話しをする。今回は会うにあたって彼からメールが来ていた。「医者の不満、患者の不安」と題されたそのメール、「こりゃ大変だなー」と思ったが、一方で「こりゃ医療業界と言うのは、サービス業という自覚がないんだな」とも感じたのだ。

彼は志が高く、患者さんへの説明に十分な時間を費やす。クリニックは高級住宅街にあり、非常に知的レベルが高い患者さんが数多くいらっしゃるらしく、説明の質・量ともも相当高い水準が要求されるらしい。一方で、彼はお年寄りの長ーい話にも出来うる限り丁寧に付き合おうとする。待合室にいらっしゃったお歳を召したご婦人と雑談したが「こちらの先生は本当に親切ですよ」と品よく微笑んでおられた。

評判が良くなると、患者さんは当然たくさんやってくる。彼は電子カルテ、電子予約システムなど、あらゆるIT投資は先行して実施している。5分おきに設定された診療スケジュールの予約状況は、受付スタッフの対応が親切かつてきぱきとしていたこともあり、あっというまに埋まっていった。

…しかし、である。診療を待つ人が待合室からあふれ出していた。特に今日は月初の月曜日ということもあり、診療に手間のかかる初診患者さんが何人も入ってしまい、その混雑が加速してしまったのだ。ある意味、当然である。彼の熱心な対応では5分で一人分の診療を終えるのはどう考えても難しい。「x時x分に予約していたんですが、まだですか?」と尋ねる患者さんに対しては、さすがのスタッフさんも苦しそうに応対していた。彼も「これが本当にしんどい」という。長くなっていく受診待ちリストは、肉体的というより精神的に負担になるのだろう。

僕はここでアイディアを投げた。「○○を導入して、きっちりと5分で患者さんを診療し終えることができる仕組みを構築して見たらどうだ?」。彼は最初はピンと来なかったらしい。しかし彼がそのアイディアを事務スタッフさんや看護師さん、クラークさんなど、彼を支えている側に投げかけたところ、即座に目の色が変わったそうだ。患者さんを待たすことなく、時間通りに診察室に入っていただきたい、というスタッフ側の気持ちは、診察室の中からは案外見えづらかったのかもしれない。

「予約時間通りに患者さんを診療できる」という目標に向かってクリニックは動き出した。これからも僕は微力ながら全力でこの取り組みに付き合っていくつもりだ。日本の医療がサービス業になる、その最前線に立ち会えることにワクワクを抑えられない。

(写真:「すっぽん雑炊」)