首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

沖縄名物としてのしゃぶしゃぶ

今日は午前と午後で2つのミーティング。別々のプロジェクトをダブルヘッダーで入れるというタフな一日だった。午後のプロジェクトでお世話になっているコンサルタントのKさんとそのまま夕食へ。「何をたべましょうか?」と切り出されたので、「例のしゃぶしゃぶのお店に行きませんか?」と答えたところ、「いいですね~。沖縄のしゃぶしゃぶは最高ですからね。」

Kさんとは1年以上のおつきあいで、毎月1回以上那覇にはお越しいただいている。那覇では都合10数回の食事をご一緒したことになるが、ここにきて正直なところお連れする店に手詰まり感が出てきた。条件でいえば、

  1. 評判のいい美味しい料理がある、
  2. ゆっくりお酒が飲める、
  3. 県庁前からタクシーで1000円以内の距離、
  4. できれば“あー、沖縄に来たという実感がわく”と思ってもらえる店。


これがなかなか難しい。なぜ難しいか。結論から言うと、この条件で探すと「沖縄料理を出す居酒屋」に限られてしまうのだ。この「うちなーの居酒屋」という枠の外になるとこの条件を満たす店が那覇には極端に少なくなってしまう。お越しいただくのは1カ月に一度程度なので、普通に美味しい沖縄料理を肴にオリオンビール、もしくは泡盛を傾けてもらえば、それで十分じゃないか、という考え方もあろう。しかし、この条件を満たせるのが「うちなーの居酒屋」だけという現状は、沖縄という独自の文化を持つ地域でありながら、また観光を主要産業としていこうとしていながら、ちょっと残念なことだな、と思うのである。

僕自身、「現状を変えようとするならば…」というアイディアをいくつか温めている。いま、全国では銘柄豚ブームであり、東京には全国から「我こそは」という豚肉が集ってその美味を競っている。僕はとんかつが大好物だということもあり、東京で暮らしていたときにいろいろな豚を食べる機会があったが、沖縄の豚はその中でもトップクラスだと感じていた。そう、沖縄の豚は本当に美味しいのである。ラフテー豚の角煮)やテビチ(豚足)、スーチカー(豚の塩漬け)はもちろん美味しいのだが、そのポテンシャルをもっと活かす方法はあるのだと思う。

一つのヒントはこの「豚しゃぶしゃぶ」にあると思っている。本土のお客様は沖縄豚のしゃぶしゃぶを「全国一」だといってくださるし、それはヤマトンチュの僕も本当にそう思う。しゃぶしゃぶという食べ方を伝統的にウチナーンチュがしてきたかどうかはよくわからない。しかし、その調理法・食し方をもっと文化の中に取り入れてもいいんじゃないだろうか。しゃぶしゃぶのような、いわば薄く切って盛るという作業だけで、こんなに高い評価を得られるのだ。

沖縄豚を材料に「うまいトンカツ」を食べさせる名店が生まれてほしい。これが僕の望みだ。東京ではとんかつ店が高いレベルでその味を競っている。それを味わう人々の舌も肥えている。このとんかつという土俵で、沖縄豚をびっくりするほど美味しく食べさせる店があれば、それは本土の人たちの間で一気に評判になると思う。そしてそのような店があれば、沖縄の人々にも「とんかつ」という料理の素晴らしさを知ってもらえる。地元の人からもその店は受け入れられ、沖縄豚のポテンシャルがまたひとつ大きくなっていく。。。大げさなようだが、このようなポジティブな展開こそが沖縄のために必要なのだと僕は考えている。

東京だけでなく、スペインやフランスにも豚肉を美味しく食べさせる文化がある。豚をメインにしたフレンチやイタリアン、スパニッシュのお店はなぜ沖縄に少ないのだろう。東京・表参道には豚肉専門のビストロは存在する。本土の人たちを飽きさせてはダメなのだ。「沖縄豚を食べながらワインを楽しみたい」というニーズは確実にあり、それを受けとめる懐の深さが那覇の夜にあってもよいと思う。

実は今年に入って、国際通り近くにあった数少ないとんかつ店が閉店した。とんかつは沖縄の人の口には合わないのだろうか。「あの店は高かったからねー」と職場の同僚はいった。美味しいとんかつを作るには、高い技術が必要なことはよく知られている。原価も高い。ある程度高いのは当たり前なのだ。ともかく、僕としては残念なことだが、数少ないとんかつ店の一つが那覇の街から消えていった。