首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

かたぶい

雨がゆっくり歩いて行くのを見た。

この地では、カンカンに晴れているのに、突然ものすごい雨が降る。乾きかけの洗濯物が一瞬で台無しになる。本土でいう「通り雨」というのとも、「天気雨」というのとも違う。一般的には「スコール」というのかも知れないが、よくわからない。

沖縄ではこの雨のことを「かたぶい」という。漢字では「片降り」と書く。片側だけ降る。通りの向こうは晴れているのに、こちら側は雨。そっちは日が差しているのに、こっちは降っている。だから、この雨は一瞬で止む。傘をさすまでもない。おばあは器用に軒先に身を隠し、そしてすぐに歩き出す。高校生はみなずぶ濡れになって雨の中を走る。いや、走るどころか歩いている子のほうが多い。

バルコニーで本を読んでいると、おもろまちあたりにモクモクと湧き上がる積乱雲を発見。その真っ下だけ、滝のように雨が降っているのがはっきりとわかる。降っている範囲は直径1キロもない、ほんの数百メートル。日本むかし話に出てくるような、マンガのような雨雲だ。

雨はゆっくりとゆっくりと移動していく。歩いているかのように見える。こちらに来るかな、と身構えていたが、そのまま安謝方面へと遠ざかっていった。

この雨は昔からずっと変わらず、そしてこれからもこの地に降ってゆくのだろう。「かたぶい」という素敵な呼び名とともに。東京ではここ数年の異常気象のもと、「夕立ち」「通り雨」という美しい言葉たちが、「ゲリラ豪雨」というおどろおどろしい表現に乗っ取られてしまったようだが。