首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

こーれーぐーす

自家製こーれーぐーすに挑戦。

といっても、作り方は極めて簡単だ。「かねひで」という地場スーパーで売られていた島唐辛子を一袋。安売りでたったの170円。これをそこいらの空き瓶に詰め込み、紙パックの泡盛を注ぎ入れるだけ。

「沖縄そばを美味しいと思えるなら、沖縄が好きになる。こーれーぐーすを気に入れば、沖縄にハマる。」これは自説だ。いま考えた。出張や観光で沖縄にやってきて、一度も沖縄そばを食べないで帰る人はいないだろう。沖縄に来たことを容易に実感できるし、実際のところ沖縄そばを出す店はいたるところにあるし。

初めてそば屋に入ってお品書きを見る。とりあえず名前を聞いたことがあった「そーきそば」なるものを注文する。冷たいを水を一口飲み、少し息をついたとき、目に入ってくるテーブルの上の透明な小瓶。液体には少し色がついている。ウイスキーのような琥珀色まではいかない、ウィルキンソンのジンジャーエールに近いだろうか。ん?中に2、3本入っているのは、これは…唐辛子か?これが一般的なこーれーぐーすとの出会いである。ガイドブックやネット情報を通じて、この液体について予備知識がある人も少なくないだろう。それにしても、実物と対面するのはこれに近いシチュエーションのはずだ。

そばが運ばれて来る。店のおばはんにその液体の名を教えてもらう。その際、必ずこういわれるはずだ。「めちゃめちゃ辛いから注意するように。1、2滴だけですよ。」1、2滴だけといっている割に、その瓶の口は防波堤の役割を果たしておらず、ドバドバと入る危険性をはらんでいる。まさに恐る恐る、ちょっと手を震わせながら、瓶を傾ける。あ、3、4滴入ってしまったー。これが一般的なこーれーぐーすとの初交流である。

こーれーぐーすWikipediaには、「琉球方言で唐辛子を意味する言葉。これを泡盛などに漬け込んだ調味料もコーレーグスと呼ばれる。」とある。その名は、唐辛子の古称である「高麗胡椒(こうらいごしょう)」の沖縄式発音(コーレーグシュー)に由来するという。

興味深いのは、泡盛に唐辛子を漬けた沖縄独特の調味料の歴史だ。驚くほど歴史は新しく、実は戦後に普及したのだそうだ。

調味料のコーレーグスの歴史は比較的新しい。普及したのは戦後のことで、移民先のハワイから帰郷した人たちがチリペッパーウォーター(Chili pepper water、Chili water)を参考に作ったのが起源であるといわれている。チリペッパーウォーターはハワイで一般的な卓上調味料で、水と塩と唐辛子から作られる。(コーレーグス Wikipedia

タイ料理やインド料理の例を挙げるまでもなく、唐辛子は南国の料理ではもっともよく使われる香辛料である。唐辛子の辛味成分(カプサイシン)は血行を良くし、発汗が促されるため、容易に体温が下がる。熱帯で生活していく上で、存在意義のある、実に理にかなった食材だ。

ハワイで出会った激辛のチリウォーター、それをちょこっと炒めものにかけたとき、そしてヌードルに入れたとき、沖縄人は「こりゃいいわ!」と思ったに違いない。南国のハワイでこの調味料に出会い、同じ南国の沖縄にそれを持ち帰った。ただ持ち帰るだけではなく、原料の塩水を泡盛に置き換えるというイノベーションを加えて。

いまや、この液体は完璧に沖縄の地に根付いている。多くの沖縄人の生活の中にある。そして少なくない旅人を沖縄に呼び込んだ。実際にハマってしまった僕がいうのだから、根拠はある。