首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

西成・貸しロッカーブルース

このところよく見るNHKの番組、ドキュメント72時間。毎回日本の様々な現場で3日間カメラを回し、そこで起こる出来事を記録する。今回はわが故郷、大阪。西成のあいりん地区にある貸しロッカー屋さんが舞台だった。大阪・西成 貸しロッカーブルース - FC2 Video

1か月千円で契約する小さなロッカー。ここでの人間模様に一気に引きこまれた。たとえば冒頭に登場する男性。顔を隠して取材に応じる。ロッカーの中身も詳細は見せない。取り立てを避けたいという事情があるのだろう。


仕事も生活も行き詰って、借金作っちゃったとか、家賃払えなくてそういう場合はほとんど(家財道具を)処分しないといけない。分かります?


何でもかんでもほってまうわけにもいかないですしね、これだけは最低限度は残したいなって、ここにちょっと預けるのね。

うーん、考えさせられる。自分が裸一貫になった時、最低限度残したいな、と思うものは何だろうか。収監中の受刑者がこのロッカーに預けているケースも紹介されていた。生きている間に本当に必要な荷物って何だろうか。墓場に持っていくわけにはいかないし、とはよくいうけれども。



(中略)



特に印象深かったのが、顔を出して飄々と取材に応じていたオジサン。かつては営業職のサラリーマンだったけれど、事情があって退職。まわりに相談できる人はなく、気がつけばこの街にたどりついていたという。今は乗り捨てられたレンタカーを全国各地から回収してまわるお仕事をされている。

運転してる時はねぇ、長いことですからいろんなこと頭に浮かびますわ。あんまりええこと思い浮かばないんですねぇ。楽しいこととかね、そういうのはあまりないんですわ。


兄弟はもう全然あれなんで、全く付き合いないんで、他人と同じですから。親戚もね。全く一人になりますからね。

本当に飄々としている。ある種の悟りの境地とも見えた。
大きめのロッカーを2つ契約。中は上から下まで余裕をもって、実にきちんと整頓されている。

あまり悲観的にならんように、本でも読んだり。
音楽も好きやからね、音楽も聴いたりね。

誰に見せるでもない貸しロッカーの棚。そこに整然と並べられた数冊の本。プルーストの狭き門、トーマス・マン魔の山ヴェニスに死すといったタイトルが映し出される。回送車の運転中に聞くというCDは、ショルティ=シカゴ響のブルックナー9番、それからモーツァルトのピアノ協奏曲21番と23番。「運転中は軽快な明るい曲がいいですからね」と、抑揚もなく淡々と語るオジサン。

とにかく精神のバランスだけをとってるようにしてるんです。

そう言い残し、オジサンは仕事に出かけて行った。CD数枚を詰めたリュックを背負って。