首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

JR北海道のケース

JR北海道の腐りっぷりには思わず苦笑いだ。

19日に函館線で起きた貨物列車の脱線事故、現場付近のレールの幅が社内の基準を超えて広がっていたにもかかわらず、およそ1年にわたって放置していた、と。しかも、同じように基準を超えていたのに補修されていなかった場所がほかにも8か所あった、と。

内部監査を担当した経験からすると、これはまぁあり得ない話だわ。絶対にこれは通常の監査で判明しているはず。もし判明していなかったとすれば、組織の体を成していない。もし判明していたとすれば、組織のトップが狂っている。いずれにしても、この一件でこの組織が完全に死んでいることが白日の下に晒された。

この組織の腐臭は17日のニュース*1でも感じられた。運転士がハンマーで自動列車停止装置を破壊していた、というやつだ。

運転士は7日午後、札幌運転所から列車を出庫させた際、先頭と2両目のディーゼル機関車に設置されたATSのスイッチの確認を怠り、非常ブレーキを誤作動させた。運転士はミスを隠すため、運転席のスイッチを備え付けのハンマーでたたいたり、足で蹴ったりして壊した。先頭の2両は函館駅で電気機関車に入れ替えられ、その後の点検で発覚した。運転士は同社の調査に「車両故障が原因だと見せかけようとした」と話している。

組織の上層部が腐っていると、こういう事象は必ず発生する。腐っている、というのはどういうことか? ミスが発生した際、それを仕組み(=組織)に問題があったという認識をもたず、すべからく担当者個人の責任に帰す、という対応をするということだ。この運転士に問題であることは間違いない。しかし、リスク管理的には、こういう行動を取らせるような、こういう行動を取ったほうが合理的だと思わせるような、そういう社内風土にこそ問題があると感じる。

JR北海道はちょうど2年前、2011年9月に社長の中島尚俊氏を自殺で亡くしている。中島氏はこの組織がすでに立ち戻れないほど腐っていることを自覚していたのではないか。

社員のみなさんへ

  • 毎日、それぞれの持ち場で、安全輸送、接客、収入確保、経費節減に取り組んでいただき有難うございます。
  • この度の36協定違反では、長期間にわたって協定に違反する事態が発生しており、社員の皆さんに多大なご迷惑をおかけしたことを、お詫びいたします。
  • 現在、5月27日の脱線火災事故を反省し、全社をあげて企業風土の改善などに取り組んでいる時に、真っ先に戦線を離脱することをお詫びいたします。
  • 当社は、年間に日本の人口とほぼ等しい、1億3,000万人の方にご利用いただいています。これだけ多くのお客様の尊い命をお預かりしているという事実を認識し、「お客様の安全を最優先にする」ということを常に考える社員になっていただきたいと思います。
  • 長い間のご支援、ご協力ありがとうございました。

この遺書にある、安全輸送、接客、収入確保、経費節減という取り組み、これはトレードオフの関係だ。同時にすべてを高いレベルで達成することは難しい。これらのバランスをとることがおそらく経営そのものであり、中島氏も誠実にその努力を続けておられたのだろう。この遺書にはその誠実さがにじみ出ていて、本当に胸が締め付けられる。

しかし、周りにはその思いを理解する者はいなかった。遺体が発見された記者会見で、JR北海道の小池会長は言った、「そこまでとは気付かなかった」と。

ここまで来ているのに気付かなかった貴方たちのほうがおかしいのだよ、会長さん。だから、その後ちょうど2年経過して、今回のような致命的なミスが相次いで発生するのさ。まあ、似たようなことが起こっている会社はJR北海道以外にもあるけれど。

生きて退職できた僕は幸せだ。

*1:Yomiuri Online「JR運転士、ハンマーでATSスイッチ壊す」2013/09/17