首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

スロープレーについて

今日から5日間の休暇。昨日のゴルフ観戦ですっかり目覚め、本当は朝から近くのショートコースを回りにいくつもりだった。けれど目覚めると外は猛烈な雨。出かける気は失せてダラダラとした休日となった。

ニュースをチェックしていたら、昨日の女子ゴルフ開幕戦の記事が。ん?宋ボベ選手がスロープレーで2打のペナルティだったって?

9番終了時に前の組との差がつきすぎたとして警告。その後はプレー時間を計測し、14番は3打を打つのに規定(101秒以上)を上回る122秒を要したためペナルティーとなった。これがなければ、宋は65で通算9アンダーの単独2位になっていた。

同組の有村は「私もプレーが速くないし、今度は自分かも。グリーン上の動作を見直さなければ」と深刻に受け止めた。
サンケイスポーツ:3月6日


まったく気付かなかった。。。いや、今から考えれば思い当たるところがある。確かに3人は後半、ティショットを打ち終わってから第2打地点まで、まるで体育会系ゴルフ部のようにフェアウェイを小走りで移動していた。我々ギャラリーも息を切らせて走って移動。これはなかなか不思議な光景だった。「へー、プロでも走るんだな。」それぐらいに思っていたが、スロープレーの警告を受けていたとは。


15番ホールのティグラウンドで、宋ボベ選手は審判員からペナルティを宣告されたらしい。14番で会心のバーディを決めた、そのはずだったのに、2打罰が科されてボギーに。同組で回っている有村選手が少なからずの動揺を感じたことは想像に難くない。昨日の日記に書いた変曲点、それはまさにこのディグラウンドだったのだ。

今日のゴルフは本当にダメ。反省します。(10:04 PM Mar 5th @arichie1122

有村選手はこのようにツイートしたあと、こんな言葉を残している。

結構急いでプレーしたんだけど追い付かなかった…。一人だけの責任じゃないから、本当に申し訳なかったです。でもペナとられた後のプレーと切り替え方は素晴らしかった。(10:10 PM Mar 5th @arichie1122


「うーん」と考えてしまった。おそらく15番ホールだったと思い起こしているのだが、宋ボベ選手が審判員に「1ペナですか?2ペナですか?」と日本語で訊ねている場面に遭遇した。その時の彼女は笑顔だった。僕はペナルティをくらった直後だとは思い及ばなかったから、「は?なんのことだろう?」と軽く聞き過ごしたのだが、彼女はすでにその時点で気持ちを切り替えていたのだろう。ペナルティを科されてバーディがボギーになったあと、残り4ホールを2バーディの-2で上がった宋ボベ選手の精神力は並大抵ではない。ショットの切れもパットの集中力もすごいというほかなかった。

その一方で、「うーん」と別のことを考えてしまった。「申し訳なかったです。」という有村選手、結果的に残り4ホールを2ボギー、1ダブルボギーの+4で上がることになるのだが、実際のところこれは有村選手が責任を感じるべきことだったのだろうか。
実際、この組のプレーはグッドショットの連続で、緊張感に満ちていた。それを間近で見ることができて、ゴルフの醍醐味を僕も含めてギャラリーはみな堪能していたはずである。プレイヤーが時間制限に追われて“小走り”で移動する姿や、ましてや緊張の糸を切られてプレーの精度が落ちるところを見せられることは、率直に言ってあまり愉快ではない。

有村選手は、先週の米国ツアーで残念ながら2位になったものの最後まで優勝を争う素晴らしい活躍を見せた。記者会見で、次のようなコメントを残している。

Q. How does playing in an LPGA event differ from one in Japan or are they very similar?


CHIE ARIMURA: At one point, the level of competition is I think very competitive. Another point is pace of play. In Japan, we tend to play pretty fast, all of the players. But here, I think that a lot of players play at their own pace.

So in that terms, I am able to concentrate shot by shot myself, as well. So that helps.


Q. How long does a round in Japan normally take?


CHIE ARIMURA: Probably 4.5 hours to play. But in Japan, it's the top starting group doesn't play ‑‑ in two hours and 15 minutes, we get timed immediately, so the pace of play is pretty fast I think.(HSBC Women's Champions, Feb. 26, 2011 Third-round notes and interviews

有村選手は米国ツアーと日本のそれを比較して、「プレーの速度が違う」と指摘している。「日本ではかなり急いでプレーする傾向があるけれど、米国ツアーでは多くの選手が自分の間合いでプレーしている。」と。「そのため、私も、どのショットも集中して打てている。」と。

ワールドクラスの戦いの後、日本に戻ったら、プレーを急がされ、小走りし、同組のプレーヤーがペナルティを科され。。。有村選手でなくてもこれはたまらないだろうと思う。ちなみに、この組がラウンドに要した時間は4時間10分。小走りさせた結果ではあるが、これが果してペナルティを科すほどのスロープレーといえるのだろうか。

実際にペナルティを科された宋ボベ選手はさらに気の毒だ。冒頭の記事では「14番は3打を打つのに規定(101秒以上)を上回る122秒を要したためペナルティーとなった。」とある。「いったい、どんな規定やねん?」ということで、LPGAルールにあたってみた。日本語訳はどこにもないので、しかたない。オリジナルの英語を参照する。

PACE OF PLAY POLICY

A player in a group which is out of position may be penalized for undue delay if:
1. She takes more than sixty (60) seconds to play one shot, including putts; or
2. She exceeds the average amount of time for the total strokes taken on a given hole by more than 10 seconds.

Example Average time: 30 seconds per stroke
Score on hole Average Penalty
3 90 seconds 101 seconds
4 120 seconds 131 seconds
5 150 seconds 161 seconds
6 180 seconds 191 seconds

Note: Putts of approximately 2 feet or less that are hit within 10 seconds or less are deemed tap-ins and do not affect a player's average time for that hole.


要するに、警告が与えられた組においては「(グリーン上も含めて)1打に60秒を超える時間を要する場合」あるいは「1打の平均を30秒として、そのホールの打数を乗じた時間に10秒を加えた合計時間を超えた場合」のいずれか一方でも引っかかったらアウト、というわけだ。しかも返しのパットのような2フィート(約60センチ)以下のパットは10秒以内で打つべし、というのだ。…うーん、これは厳しい。今回の宋ボベ選手のように、上位争いに加わるなかでバーディにトライする場面では、自ずとラインの読みも慎重になる。しかも、このルールに従えば、この場面で宋ボベ選手のバーディパットがカップを61センチほどオーバーし、それを沈めていたならペナルティは科されなかった可能性が高い。素晴らしい集中力でボールを沈めた姿を目の前で目撃しているだけに、心情的にはどうしても納得がいかない。

さらに、警告の与えられ方にも納得がいかない。この組は2時間5分で前半を終えたが、「10番ティで前組がすでにグリーン上に居なかったため、規定のプレーペースから遅れていると判断されて警告が入り、その後プレー時間を計測され始めた。*1」という。僕が見る限り、この次の組がグリーンが空くのを待っている、という感じではなかった*2。後ろの組の状態は関係なく、前の組の進度だけで既定のプレーペースから遅れていると判断するのはいかがなものか。実際、後ろの組は優勝争いに絡むわけで、そうすると1つのパットにも自ずと時間を要するわけで、淡々と進む前の組のスピードより遅くなるのは当たり前ではないか。

以上のように考えてきた結果、この居たたまれない思いは、最終的に「アメリカではこのルールは大きな問題にはなっていないようなのに、なぜ日本の(女子)ゴルフだけ厳しく適用されるように見えるのか。」という疑問に行きつく。ここからは全くの想像であるが、ゴルフ中継番組を制作する「テレビ局」からの要請が背景にあるのではないだろうか。

僕が昨年知ったように、(国営放送の一部の中継を除き)ゴルフ中継番組は純粋な中継ではなく「編集番組」である。番組を編集するための時間(マージン)をできるだけ多く確保しておきたい、という編集側の事情は想像に難くない。女子ゴルフの人気は一時期よりも格段に落ちており、おそらくテレビ局とゴルフ協会の力関係も変化してきているのだろう。ゴルフ協会としては、テレビ局の要求を受け入れる形で、プレーのスピード化を厳しくしたのではないだろうか。しかも今回は開幕戦。想定プレー時間を4時間ときつく定めたうえで最初の組にそのペースを守らせる。一罰百戒の意味も込めて、それに遅れた組にはペナルティを科すという形で厳格に運用したのだと想像する。

結果的に、これで満足するのは編集時間に余裕ができるテレビ局だけだろう。「選手」と「ゴルフファン」にはただただ迷惑なだけである。本当に見たいのは、ただ一つ。クオリティの高いプレーである。ただでさえ、女子ゴルフ人気と視聴率の低迷を自分たちの中継のマンネリ化を棚に上げ、マスコミは「日本のスター選手の力不足」、そのただ一点に負わせようとしているように見受けられる。さらにもし今回のスロープレー厳罰化の背景に(僕の想像通りに)その影響があるのだとしたら、もう何をかいわんや、である。

…すみません。にわかファンが生意気申し上げました。休暇中で時間が余っていたものですから。。。お許しを。

*1:ゴルフダイジェスト・オンライン 3月7日(月)19時39分配信

*2:有村選手もツイッターで「琉球では2時間切らないと遅いっていう判断らしいです。ボベさんがペナとられた時も、後ろは一ホール空いてました(>_<)(7:37 PM Mar 6th)」とつぶやいている。