首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

嶺吉食堂を惜しみて

今日は朝から嶺吉食堂へ。

いよいよ閉店まで2か月を切ってしまった。てびちの名店がまた一つ消えてしまうのが残念で仕方ない。あと何回通えるか。

那覇港を向かいにして立つ嶺吉食堂、開業は半世紀以上前の1960年。もちろん当時の那覇港は沖縄の表玄関。さぞや活気に満ち溢れていただろう。時は流れ、30軒以上あった飲食店、昼間営業するのはいまやこの嶺吉食堂のみとなってしまった。

閉店の理由。ひとつは道路拡張による立ち退きだそうだ。この一角、時代に取り残されたようなボロい趣のある飲食店が数軒残っている。お店の壁に当時の写真がひっそり残されていた。船に乗って沖縄を離れて行く人、沖縄へ戻ってきた人。どんな思いでこの「てびち汁」を口にしたのだろうか。当時の雰囲気がそのまま残った店内で、そんなことをふと考える。

ああ、これこそが沖縄の歴史でしょう。つくづく、もったいないなぁ、と思う。お店の前の道は中央分離帯と専用歩道のついた片側二車線道路が完成しつつある。南カリフォルニアを思わせる港沿いの快適なドライブロード。確かにきれいではあるけれど、僕ははっきりいって好きじゃない。沖縄の良さって、こんな表面的なものじゃない。

これから沖縄はどんどん浄化され、無菌化されていくのだろう。いまどき公共投資がこれほどガンガン出る地域はこの島しかないし。道は整備され、街は区画され、そこにつまらないビルが無秩序に建てられる。まったく魅力を感じない風景があちこちに出現する。普天間が返されたとしても、無味乾燥なくだらない“第二おもろまち”が誕生するだけだろう。

かくして沖縄の活気と歴史は失われ、「てびち」という素晴らしい食文化もどんどん風化する。まあ、仕方がない。僕はこの名店を惜しみつつ、閉店となる年末まで足繁く通うのみ。