首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

オランダ戦に思う

週末にあったオランダ戦。せっかく親友が遊びに来てくれていたので、彼との時間を優先した。生中継の時間帯、リビングにはいたのだけれども。結果はわかった上で、ゆっくりと事後観戦。どれどれ。

2点目となった後半15分の本田のゴール。“歴史に残る美しいゴール”と絶賛されているようだ。ペナルティエリア内、狭いところでのダイレクトパスの交換。目にもとまらぬ振り抜きで決めた本田は流石だ。さらに大迫のアシストが素晴らしい。ディフェンダーに押されつつ、相手に当たって方向が変わったボールを、アウトサイドで的確に本田に差し向けた。この男、並みじゃないな。

ふと思った。この2点目が理想のゴールなのだろうか。日本が追い求める得点スタイルなのだろうか。確かにこの形でのゴール、ここ数試合何度も試みられてきた。狭いスペースに突っ込み、こじ開ける。今回は決まった。これまでは決まらなかった。

確率の問題じゃないか。このスタイルでのゴール、賽の目が3回、4回そして5回と続けて同じ数が出るようなものだ。たまには決まる。はまると決まる。でもなかなか決まらない。

むしろ1点目のゴールこそが理想だと思う。前半終了間際の大迫のゴール。高い位置で奪ったボール、長谷部が前を向くや大迫は一気にゴールへ突進した。相手の体勢が整う前に長谷部がパスを通す。それを大迫は冷静に決めた。しかもワンタッチで。

確率の問題でしょう。賽を振るのは2回。パスを出すタイミング。そしてシュートの精度。後者は決定力とも言い換えられる。どの国問わず、追い求めるべきはここでしょう。普遍的、鉄板の得点パターンは決定力を上げること。

だから今回の大迫はすごい。海外組を含めた代表チームでは初めての1トップ。巡ってきたチャンスを完全にモノにした。ホンマしびれるわ。出場機会に恵まれなかった選手の活躍は心底うれしい。

うれしかったといえば、ゴールキーパー西川周作の活躍だ。控えとしてずっと川島の後塵を拝してきた男だ。彼の試合後コメントには心を打たれた。先発は当日のミーティングで告げられた。予感は全くなかったという。

  • 今日は楽しもうと思っていました。こういう機会は自分になかなかなかったので、とにかく自分の持ち味を出すことだけを意識してやりました。
  • こういうアウエーでA代表として試合をしたことがないので、やっと経験できたことが素直にうれしかった。

うれしかった。良かった。楽しかった。西川はこんな言葉を何度も何度も口にした。

  • いつも(チームメートが)感じているんだなというものを自分もピッチで感じられました。(3戦惨敗した)コンフェデレーションズカップは外から見ていたけど、前半で2点を入れられて、屈辱的な気持ちを試合で感じられたのは逆にうれしかった

ああ、この感覚。うん、わかるような気がする。控えとしての役割、ベンチを温める役割。それには意味があるとは分かっていても、やっぱり試合に出てナンボなんだよ。試合に出たいんだよ。

僕も沖縄に来てから初めて仕事を干された。人生で初めての経験。縁の下の力持ち、人の尻拭い。それはそれで全力でやったのだけれども、結局僕は日の目を見なかった。最後まで主体的な形では銀行業務に携わらせてもらえなかった。自分にやらせてもらえたら。自分でもやってみたい。そういう気持ちは冷や飯を食わされた人間でないと分からない。

この試合、西川は実際とてもよくやっていた。芝の剥がれが目立つペナルティエリア。イレギュラーバウンドも多く、誰の目にも難しいコンディションだった。持ち味のロングフィードも精度が高く、一気にチャンスになるケースもしばしば。後半のビルドアップは特に的確で、日本が終始押し込めた要因の一つだったように思う。

1点目の失点は味方の凡ミスから。2点目は世界最高峰のストライカーの放った問答無用のビューティフルゴールだった。客観的に見て、ノーチャンス。「オランダのシュートはどう感じましたか?」という記者の質問に、西川はこう答えている。

  • やはりパンチ力があるなと。ロッベンのシュートなんかもワールドクラスだなと感じたし、ああいうシュートを止められるGKになっていきたいと思いました。
  • 本当に楽しかった。もっと続けばいいのになと思っていました。それはこれから自分が勝ち取ることだと思っているし、この経験を生かしていきたいです。

終始笑顔で後方から声をかけ続ける姿はとても好感が持てた。日本の守護神には、鬼の形相の仁王より微笑みの七福神が似合うかもしれんぞ。試合はまだまだ続くかもしれんぞ。