首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

Mozart Quintet K.452

インターネットラジオがフル稼働。午前中はRadio Mozartを流しっぱなし。自分が弾いたことのある曲から、まだ聴いたことのない曲まで実にさまざま。

インターネットラジオの素晴らしいところは、いま流れている曲名・演奏者がすぐに分かることだ。聴きなれていない曲であれば、「あー、これはなんだっけ。」とか、お馴染みの曲であれば「これは誰の演奏だろうか。」とか、iPadの画面をみればすぐに分かる。

ランダムにかかるので、曲名当てクイズにもなる。聴きなれている弦楽四重奏曲ピアノソナタ、コンチェルトなどは、何番の第何楽章か当てるのが楽しい。

聴きなれている曲だと、ギョッとすることもある。楽章と楽章の間の流れはぶった切られる。第二楽章が終わって、感覚が第三楽章の最初の音をイメージして待ち構えているのに、全く違う曲が想像もしないテンポで始まったりする。全楽章を通して聴くのに慣れていると、この辺はなかなか落ち着かない。

突然、思い出深い曲が流れたりする。そんな時は思わず活字を追うのをやめて、じっくりと耳を傾ける。今日はQuintet K.452、ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調に聴き入った。
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長銀総研でエコノミストをしていた20代のころ。社長秘書から電話で「ピアノ弾けるんでしょ?モーツァルトもできる?」と聞かれた。

「一応弾けますが、モーツァルトは下手です。」と答えたら、「いいからすぐ社長室まで来て。」

社長は銀行の元副頭取。ずっと頭取候補といわれていた大物だ。最後の最後でレースに敗れ、ライバルは頭取に、自分は子会社のトップに。下っ端行員には直接の接点なんかないが、「シンクタンク業務には理解薄いよ」「いつも機嫌悪いよ」といったうわさは聞いていた。

社長室はビルの角部屋。大手町交差点に面している。「失礼します。」と入ると、いきなり「モーツァルトは嫌いか?」と切り出された。

「いえ、大好きすぎて、自分で弾くと嫌になります。」と答えた。「ならいい。これ、やろうよ。」と見せられた楽譜がこれ。Quintet K.452。最高でしょう。大好きな曲だ。

年末に開催される忘年会の余興でやりたいという。開業したばかりのパークハイアットでやるとは聞いていた。「派手すぎ。」「そこまで余裕ないでしょ、うちの会社。」という声も聞こえていた。

「ピアノはいいとして、他のパートは揃うんですか?」と僕。「クラリネットとホルンは社内に弾けるのがいる。ファゴットはさすがにいない。知り合いに頼もうと思う。」と社長。そして「オーボエは僕がやる。」

はー、そうきましたか。オーボエねぇ。オーボエは難しい。なかなかブラスバンド経験者でも鳴らせない。ギネスブックに「世界一難しい楽器」と認定されているのはまあいいとしても。

とりあえず、第一楽章だけをやろうという。社長がその覚悟なら、やってやろうじゃないですか。決まればカッコ良過ぎでしょ、これ。楽譜をもらって、部屋を出るときには気分は知性派アルフレート・ブレンデルになっていた。
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練習はしたけれど、忘年会で披露することはなかった。ホルン担当の先輩が「これ、きついよ。」とギブアップ。ファゴットは音大生にやってもらうということだったが、結局引き受けては現れず。そしてお蔵入り。手元には楽譜と思い出が残った。

今回この曲を耳にして、あまりの懐かしさインターネットを物色。なんと「4手ピアノ用編曲」の楽譜が存在することを知った。要するに、ピアノ連弾用ですな。無料でダウンロード可能。すごい時代だな。

これなら、オーボエクラリネットもホルンもファゴットもいらない。メンバーを探さなくても大丈夫。しかも、オリジナルのピアノパートよりもやさしいと思う。上でも下でもどちらでもいいので、誰かつきあってくれないだろうか。