首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

菊池桃子/Songs

激しい雷雨で羽田の機能がマヒ。最終便は大幅に遅れた。

空港はタクシーを待つ人の大行列。日付が変わってからの帰宅となった。荷物を置いて、スーツを掛けて、パソコンを立ち上げる。メールの返信を2本ほど書く。
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偶然、NHK菊池桃子の番組が始まった。思わず引き込まれる。

昔のエピソードが語られる。東京タワー下の録音スタジオ。レコーディングが上手くいかなくて、芝公園のベンチで一人泣いていたそうだ。「そしたら、お巡りさんに保護されちゃった。」

交番が映る。「この交番です。ここに保護されましたっ!」明るい笑顔で指差しながら話す。全然変わらないな、この子は。こっちも笑顔になる。

何十年振りかで訪れたスタジオ。少し小走りになって、笑顔で入口に近づく。「ドアを開けたら、若い頃の私がいそうな気がするんです。」

菊池桃子はスカウトされてこの業界に入った。叔母さんの経営する飲食店に置かれていた写真、それが業界関係者の目にとまった。「のし上がろう」とか「有名になりたい」とか、野心とか名声とか、そういうものとは対極にいる印象があった。

懐かしい、変わらない。そう言いながらレコーディングブースを見詰めていた彼女。無言で1回、2回と小さくうなづいたあと、突然涙ぐんだ。

  • ここで仕事をしていた10代の頃、大人の中で仕事をするのがやっぱり怖くて、不安だったんでしょうね。
  • なんか向こうのガラス越しに、10代の頃の不安な自分が立っていそうで。いや、懐かしいけど、怖いような気がしますね。
  • 自分なりに必死だったから。うん、不器用だったんですね。

ファンの期待とか、大人の打算とか、そういった訳のわからないものを一身に背負って、とにかく全力でそれに応えようとしていた。あの頃のまま残るこのスタジオで感したのは、当時背負っていたものの重さなのだろう。

ポロポロとこぼれる大粒の涙。それは、不安なまま全て受け止め、苦しんでいたあの頃の自分が流せなかった涙だったのだろうか。

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青春のいじわる、という曲が流れた。菊池桃子のデビュー曲だ。

なんだかしみじみと聴き入ってしまう。こんなに味のある歌だったっけか?

26歳で突然の結婚、出産。流産、離婚を経験。離婚前から難病のシェーグレン症候群に苦しんでいることを明かした。その後大学院で学び、修士号を取得。今は障がいをもつお子さんを育てるシングルマザー。母校の短大で客員教授として教鞭をとっているという。

アイドル当時と歌い方は変わらない。けれども、なんだかとても伝わってくるものがあった。

根っからのいい人なんだな、この人は。僕もファン活動の再開を宣言。