首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

暴れ者・ノグリー

早朝から首里に吹き荒れる暴風。

台風では史上初となる特別警報が未明に発令。恐る恐るベランダに出てみたが、ほんの2歩歩いただけで身体が浮いた。これはやはり尋常ではない。

天気予報では夕方にかけてさらに風雨が強まるという。もちろんバスもゆいレールも終日運休。早々に決断し、出勤を見合わせる旨オフィスに電話を入れた。すみません、ナイチャーは怖がりで軟弱なんですわ。こんな日に僕がいても、きっと何の役にも立たないだろうし。

ともかく凄い風だ。マンションの建物自体が風で揺れているのが分かる。ベランダに面した南東側のガラス窓が大きく内側にたわむ。物が飛んでこなくても、ひょんの拍子に風の力だけでバリンと割れてしまいそうだ。

ほぼ水平に風雨が打ちつける。窓にはどこかから飛んできた木の葉がへばりつく。トステム製のしっかりしたサッシなのだが、たわんだ隙間から風が漏れ吹きこんでビュービューと不気味な音がする。とりあえずガムテープを貼ってみるのだが、よけいにガラスがたわんでくるようでかえって恐ろしくなる。

外では「ガチャーン」、「ベリベリっ」と、派手な音が時おり聞こえる。何かが風に飛ばされ、剝され散っているのだろう。

ブーン、ブーンと唸り声のような音が響いている。電線が風にたわんで、ベースの弦のようになっているのだ。いつぞやは電線が切れて、この一帯が半日余り停電を余儀なくされた。今回は耐えてくれればいいのだが。

クルマはほとんど走っていない。時折、複数の緊急車両のサイレンが響く。どこかのガラスが割れたのだろうか、貯水タンクが飛ばされたのだろうか。そんなことが頭をよぎる。「特別警報発令中につき、最大限の注意を」。NHKにそういわれたところで、いったい何を注意すればいいのか。

気がつくと、何とベッドが水浸しだ。天井の梁から水が滴り落ちている。管理人に電話を入れてみる。まあこんな日に対応してもらえないとは思うが。とりあえずグショグショになった布団とシーツを剥ぎ、ベッドの上に洗面器を置いて水を受ける。ああ、こんなのマンガでしか見たことのない光景だ。
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夜になり、風向きが西寄りに変わる。ガラスを叩きつける風の音がずいぶんマシになる。相変わらず建物自体は揺れているのだが。西向きの部屋の住人は、きっと恐怖を感じているはずだ。

ノグリーはいま久米島の西の海上を進んでいる。予報が外れ、本島直撃を避けられたのは幸いだったとしか言いようがない。もし、本当にジャストミートしていたら。そう考えると恐ろしい。

ただひとつ懸念するのは、おそらく県民の中に「特別警報って、この程度か」と記憶されてしまったことだ。コースがそれてなかったら、大変なことになっていたことは間違いないのに。