首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

たま駅長

たま駅長が亡くなったというニュース。

日本でも指折りの有名な猫だった。うちのおかんも「見に行った」と言っていた。

表情がキリリと引き締まっていて風格がある。しかも実に大人しい。帽子をかぶらされても、撮影で延々とシャッターを切られても、「これが仕事」と淡々とこなしていた。立派な猫だった。

いや、猫なのだから「これが仕事」であるはずがないのだ。今回のニュースで気づいたが、「たま駅長」をめぐるフィーバー、いつの間にか度を越していた。もうこれは「地方ローカル線・ちょっといい話」のレベルではないだろ。

和歌山電鉄は調子に乗りすぎだよ。便乗グッズの販売はまだいい。それにしてもいつのまに、こんな醜悪な駅舎に立て替えてたんだ? 何が目的? だれが喜ぶんだ?
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あの南海独特の駅舎がよかったのに。不採算ローカル線の終着駅だけが醸し出せる風情。隣接する雑貨店の飼い猫。そいつが駅にチョコンと座って乗客を出迎える。

経営が完全に傾き、貴志駅が無人駅となった。南海がこの路線を手放し、これまでネコ小屋があった土地を地方自治体に明け渡さねばならなくなった。そのタイミングで、「タマを駅長にしてしまおう。」と考えた新会社の社長。前例のない中での決断。そのセンスと勇気は驚嘆に値する。

「駅長・たま」という首輪を作り、小さな帽子を被せる。木製の改札口に支え板を追加し、そこに鎮座する姿は実に絵になった。夕方のローカルニュースに一番似つかわしいネタだ。評判になるのは当然だった。確かに駅長に会いに行きたくなった。
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それがどうだ、この貴志駅の変貌ぶりは。風情も何もあったもんじゃない。

猫の耳と眼を持つ奇怪な建築物。これを見て美しいと感じる人間は皆無だろう。「洒落ているな」「いやー愉快だ」と思う人がいるんだろうか。関西人の僕でもこれはムリ。九州や岡山の人は許せるのかもしれないが、これは絶対にムリ。

駅舎のてっぺんには「TAMA」の文字。「たまミュージアム」を設置し、考えうる限りのたまグッズを開発・販売する。たまの図柄の入った紙コップで飲食物を提供。あげくの果て、駅のホームには「猫神社」を設置。

たまが天に召された後も安泰となるビジネスモデルの構築、ですか。お賽銭まで和歌山電鉄(親会社は岡山県の鉄道会社)に入るんだ。いやぁ、ここまでやるかね。
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廃線寸前のローカル線だから、どうせ地方自治体からの補助金も入っているはずだ。もちろん今は貰ってないよな。高名なデザイナーに設計させ、従来の何倍もの大きさの、凝りに凝った駅舎に建て替える余裕があるくらいだから。