首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

『春を背負って』

『春を背負って』を観る。

妹から「いい映画らしい」とメッセージをもらっていた。確かにいい映画だった。

懐が深いというのだろうか、安心してストーリーに身を委ねられる。ゆったりと寄せては返す、大きな波のような映画だ。

冒頭のシーン。真っ白な雪原に、足跡を残しながら親子が進む。圧倒的な画が広がる。どこからどうやって撮ったのだろう。この時点で、カメラマンにも、役者にも、もちろん監督にも完全降伏。
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舞台は越中の国、立山。僕にとって、立山は最も印象深い山の一つだ。これまで行った山の中から、ひとつだけもう一度登れるとしたら、僕はこの山を選ぶだろう。

2008年の夏に登った。竹橋・毎日新聞社前から夜行バスに乗る。翌朝室堂に着くと、絶好の登山日和だった。初日は一の越から雄山登頂。大汝山を経由して内蔵助山荘泊。翌日は真砂岳から大日三山を巡って雷鳥平に下りるコース。雷鳥の親子にも出会えた、幸せな時間だった。

今回、ロケで使われた山荘は「大汝休憩所」。赤い屋根が印象的な「菫山荘」として登場する。きっと残っているはず、と昔の写真を探したら、あったあった。

僕が立ち寄った時は、上層の屋根も下層と同じの青い色だった。ちょっと地味だな。まさかこの屋根で、蒼井優が布団干しをするとは思わなかった。
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この映画を見て、取り憑かれたように山を歩いていた頃を思い出した。

そこそこ充実していた東京での生活。身体は疲れているのに、毎週のように夜行バスに乗ったのはなぜだったのだろう。高い山にチャレンジしたかったのはなぜなのだろう。

確かに、山は魅力的だ。出てきたいくつかのセリフ、山に惹かれたことがある人はグッときたに違いない。

  • 自分の足で歩いた距離だけが、本物の宝になるんですね
  • 一歩一歩、負けないように歩けばいい


あの当時の僕は何かしら、本当に「生きている」という実感が欲しかったのかもしれない。

自分の食料と水は、すべて自分自身で背負って歩かなければならない。道を間違えば、天候を読み違えれば、ごく簡単に命を失ってしまう。そういう状況に自分を晒してみたかったのだと思う。

また山に登ることがあるのだろうか。沖縄には山はないけれど。