首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

土佐の大勝負/龍馬伝

週末のお楽しみ、龍馬伝の再放送。

改めて、とてもよくできたドラマだと感じる。史実との相違をツッコミだすとキリがない。いいの、いいの。野暮なことは言わず、1年間かけてどっぷり福山龍馬にハマればいいだけ。

今週は大詰めの第46話、「土佐の大勝負」。僕が一番シビレた回だ。
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後藤象二郎がいい。

人間のプライドとは何か。守るべきか、捨てるべきか。その間で苦悩する姿を見事に表現していた。

世の流れを、己の正しいと信じた方向に導きたかった後藤。本当は龍馬の存在を隠し続け、その成果を自分ひとりのものとしたかった。しかし、どうしても主君・容堂公を説得できない。

龍馬に会ってくれと切りだす。その理由を尋ねる容堂に、ついに隠し続けていた事実を告白する。

今の、今の、この世の中の流れを作ったがは、坂本龍馬でございます。
憎み合う薩長を結び付け、土佐と薩摩との盟約を取り持ったがは、あの男ながです。

「おぬし、どうしてそれを黙っちょったぁ?」驚いて尋ねる容堂。

滴り落ちる脂汗の中から、後藤は絞り出すように言葉を吐いた。

妬ましかったがです。

妬ましかったがです。下士の分際で、叔父上吉田東洋様に認められ、
脱藩者でありながら、次々と。。次々と大事を成し遂げて行く坂本が、妬ましかったがです。

絶対に言いたくない。しかしなぜ、後藤はこの言葉を出せたのか。何が彼を動かしたのか。

思うに、それは志だ。大志を抱く人間が、いざ大事を働く時には、どうしても越えなければならない柵(しがらみ)があるのだ。

柵を超える瞬間が完全な形で捉えられていた。脚本も、カメラワークも、そして役者・青木崇高も、すべてが見事だった。
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龍馬と面会した容堂。大政奉還を将軍に建白してほしいという龍馬に、それは直訴かと確認する。受け入れられなければ、腹を切る覚悟があるか、と。

  • この国は生まれ変わらなければならない。それが大政奉還だ。武士という身分も無くなってしまうだろう。
  • しかしこの国は、武士が力で収めるのではなく、志がある者が、議論を尽くして治めていく国になるべきではないか。


そう言い切った龍馬、腹を切るための刀・脇差を容堂に差し出した。龍馬と並んで容堂に向き合う後藤、切迫した表情でその刀に視線を遣る。

龍馬は1本の書簡を添える。「ここに、日本の新しい形が書かれちょります。」おそらく、船中八策だろう。以上が直訴のすべてだ。「大殿様のご決断を、お待ちいたします。」

容堂は、あまりの内容に目が泳ぎ、席を立とうとする。立ち去ろうとしたまさにその時。

大殿様っ。ご決断をっ。ご決断をっ! 

後藤は自分の脇差を取り、「ドンっ!」と力をこめて容堂の前に差し出した。差し出したのは、後藤の命だ。大政奉還の建白に、後藤も命を懸けた瞬間だった。

立ち止まった容堂は龍馬に問うた。「武士も大名もなくなった世の中に、何が残る? 何が残るがじゃっ?」

「日本人です。」龍馬は顔を静かに上げ、答えた。「異国と堂々と渡りあう、日本人が残るがです。」頬に涙が伝う。後藤は頭を下げたまま、身体を震わせ泣いている。

こわばった表情でそれを見詰めた容堂。やがて静かにこう言った。「刀を、しまいや。」一瞬、時間が止まった。

「しまえっ!」一喝する容堂。龍馬と後藤は同時に刀を脇に納めた。直訴は受け入れられたのか?立ち去る容堂の足音が響く。
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月明かりの縁側で船中八策を読み終えた容堂。傍に後藤が控える。

一藩を治めるにすぎない大名が、将軍に大政奉還を具申するというのは途方もないことだ。「建白書を出して将軍の怒りを買うと、山内家は取り潰されるかもしれない。」そう呟いた容堂に後藤は落ち着いた声でこう言った。

大殿様が御覚悟をもって建白されるのならば、それに異を唱える家臣は、この土佐には一人もおりません。

それを聞いた容堂は、小さな微笑みを浮かべ、自らの盃を後藤に差し出した。驚く後藤。次の瞬間、グッと唇を引き締め、思いを決してから両手でそれを受け取った。主君・山内容堂公と酒を酌み交わすことがあろうとは。

「武士の世を、終わらせるかい。」そう言って、容堂は注がれた酒を一気に飲み干した。
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かくして容堂は建白書の筆を執り、龍馬に手渡された。

容堂が去ったのち、龍馬は後藤に「まっこと、有難うございました。」畳に頭をつけて礼を述べて。すぐには言葉が見つからない後藤。

「坂本。」

そう言って立ち上がり、右手をすっと龍馬に差し出した。促され、立ち上がった龍馬は自分の右手でがっちりとそれを握った。シェイクハンド

大志を持ち、それを共にする者の間に、言葉はいらなかった。