首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

無への道程

無職となり90日が経過。近々失業手当も支給され始める。

早期リタイア、これを目指している人が案外多いらしい。“セミリタイア”で検索すると様々なブログが引っかかってくる。つい一昔前まで、早期退職者なんて、世の中の底に沈殿したヘドロのような存在だった。世の中と隔絶した存在。思うことや生活ぶりなんて知ることは不可能だった。

しかし今は知ることができる。いろいろな人が、いろいろな境遇で、いろいろなことを考えているのだな、と。

無への道程。そんなタイトルのブログを知ったのは自分がリタイアしてからだ。自死決行日までの日々の心境や行動が淡々と綴られている。更新は自身が設定した決行日当日、昨年の10月29日で止まっている。

  • この35歳のブログ主、職場上司の理不尽に苦しめられる日々。悪意ある人間との関わり合いを避けるため、セミリタイアを目指すようになった。FXでの資金運用と月5-6万円のアルバイトでつつましくも心安らかに暮らしたい、そのようなセミリタイア生活を夢見ている。
  • しかし、東日本大震災で損失を被る。資金は343万円から189万円に。資金計画が大きく狂ってしまった。「仕事は多分、一生やめられないでしょう」と記してブログは中断する。
  • 6月にブログをこれまでのFXカテゴリーからニートカテゴリーに変更して再開。再開時にはもう死へ向けたおよそのスケジュールができていた。約200万円の貯金で残りの人生を過ごす。翌年3月、決行日を10月29日と定めた。その日からカウントダウンが始まる。その後も日々の心境や行動が淡々と綴られていく。しかし更新は10月29日で止まっている。


読んでみて、複雑な気持ちになる。共感できる部分が少なからずあるのだ。一方で、僕と彼を分けている要素もいくつかある。その中で無視できないのは、カネの問題だ。

彼の毎月の生活費は約11万。国保と年金を加えると13万円であることを明かしている。もし彼の預金口座に2億円があったならどうだろう。生活費130年分。率直に言って、彼のブログは1年たった今も続いていたように思う。

自分の金融資産を年間支出額で除した年数。僕の場合、これを退職の際に相当意識した。自分の寿命まで、希望する水準の生活を続けることができるかどうか。資金運用のリスク、支出のリスクも踏まえて、よし大丈夫と確信した時点でリタイアメントの資格が生じる。そのようにずっと思ってきた。

人は必ず死ぬ。しかも120歳まで生きることは極めてまれであることも分かっている。その意味で、人の寿命は管理するには相当容易な部類のリスクだ。しかし、自分で死のタイミングを決めることはできない。長生きのリスク。これがどうにも厄介だ。

無への道程のブログ主は、自分で死のタイミングを決めた。それが僕との違いだ。しかし、もし彼に相応の資産があれば、僕と同じだったかもしれない。いわばたったその程度の違い。