唄会/大島保克
昨夜は久々に音楽を聴きに出かけた。向かったのは久茂地・りうぼうホール。「大島保克 20周年記念唄会 FINAL」。
沖縄民謡を生で聴くのは実は初めてなのだ。大島保克という唄者を知ったのは、先日の竹富島への旅の折。宿に備え付けられていたCDに衝撃を受けたことはすでにブログに記した。
開場18:30、開演19:00。10分前に到着すると、入口の前には20人程の列ができていた。思っていたよりも少ない。時間ぴったりに入場が促される。席は自由。三線ソロの唄会だとどこがいいんだ? とりあえず前方に陣取った。
席は最前列と最後列から埋まっていった。定員は百数十名程度、その7割程度の入りか。比較的前方に空き席が目立つ。唄会は後ろが聴きやすいのだろうか?
開演時間まで、ボサノバアレンジの下らないBGMが流される。音があまり良くなくて、しかも音量は大きめ。ちょっと嫌な予感がする。
開演時間ぴったりに演者登場。まず太鼓のサンデー氏、続いて三線を抱えた大島氏。パイプ椅子に腰をかけ、ちんだみ(チューニング)が始まる。驚くことに、まだBGMが大音量が流れたまま。管弦楽の演奏会だったらここから一気に集中モードに入るのに。このテーゲーさが唄会というものなのか?
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軽く息を整えて演奏が始まった。民謡だ。もちろん僕の知らない曲。舞台との距離が近くて、どこに視線を合わせればいいのか戸惑う。目を閉じるのではなく、三線の運指にぼんやりと視線を置くと音に集中することができた。
2曲終えて、ごあいさつのMC。前半は八重山の伝統的な曲を演奏する、と。「続いて演るのは“うーふぁらくぅいつぅい”。デビューアルバムにも入れた最も好きな曲です。」
うわー、大浦越路(Ufarakuitsui)。ジェフリー・キーザーとのデュオアルバムの9曲目だ。僕の最も好きな曲で、毎日毎日数え切れないほど聴いている。プログで評した下千鳥もいいが、こちらはそれ以上に気に入っている。うれしい。思わず手を挙げて拍手した。目が合った大島さんはニヤリと軽く笑い、そして演奏が始まった。
大浦越路については、また改めてブログで書くことにしよう。素晴らしかった。生でこの曲を聴けただけで、ここに足を運んだ甲斐があった。「こういう渋い曲がたくさんあるんです。2時間ぐらいこんなのばっかりで演りたい。」と大島氏。そうなると泡盛も必要ですな!
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ひとつひとつに丁寧な曲解説が入る。メモもとれず、曲名が覚えきれないのがもどかしい。そのなかで、竹富島の民謡として紹介された「仲筋ぬヌベーマ」は強く印象に残った。
竹富島には山も川もない。だから水がない。頼りにするのは雨水をためる水甕だ。これを産する向かいの新城島の役人は、仲筋集落に住むヌベーマ嬢と交換で引き渡すという。麻布と水甕を得るため、愛する娘を引き渡さなければならなかった島人の心情を唄う曲だと紹介された。
かの有名な竹富の曲「安里屋ユンタ」は、言い寄ってきた役人を絶世の美女クヤマが袖にした、その高潔さを称えた歌だと記憶している。「仲筋ぬヌベーマ」はその全く逆だ。そして、そのケースの方が圧倒的に多かったのだろうと想像される。
花と観光客であふれる竹富島のイメージとは全く異なる。緊張感を湛えた、切々とした曲調だった。このような遣る瀬ない心情を受け止め、吐き出す助け。それを担ってきたのが民謡だったのだろうか。
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与那国の曲として紹介されたのは「東崎(あがりざき)」という曲だった。喜納昌吉のオリジナルだそうだ。大島氏は喜納“先輩”に直接この曲の由来を聞いたのだそうだ。
与那国の東崎という岬で海を眺めていた。小さな百合の花が咲いている。そこでドドドーンと大きな波しぶきがあがり、百合が左右にバババーッと揺れた。それに触発され、ズズズーンというイントロが浮かんだ。
なんだかよくわからないし(笑)。けれども、とても力のある曲だった。言葉はわからなかったが、何かに感動して、何かを伝えたいのだということはよくわかった。喜納昌吉は何とも敬遠したい雰囲気満載だが、この曲の作者だと聞いて少し興味がわいた。
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前半は45分ほど。あっという間だった。15分ほどの休憩がはいって後半はオリジナル曲を中心に。
ジェフリー・キーザーとのアルバムにも含まれている「東方節」が印象深かった。大島氏が沖縄本島で暮らしているときに通ったヤンバル(本島北部)。ここで知った独特のチューニング(三下げ?ちょっと聞き取れなかった)がとても気に入って、それを使った曲をずっと作りたいと思っていたそうだ。そして完成したのが東方節。
素晴らしいじゃないか。こういう情熱がなければ伝統は繋げない。しかもこの曲は、ジェフリー・キーザー・バンドとの共演によってさらに上のレベルに止揚した。大島さん、あんたは凄い人やわ。
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最後の曲として紹介されたのが「イラヨイ月夜浜」。カラオケで何度か聞かされたことがあった。有名な曲だな。エピソードが面白かった。
東京の目黒川沿い。両岸に桜並木が続く東京随一の夜桜の名所だ。僕も神田川沿いに住んでいたのでよく分かるのだが、その季節、夜はビニールシートが敷き詰められ、夜桜宴会の歓声が絶えない。
桜を愛でながら一人歩いていた大島氏、流れてくる三線の音に気がついた。演奏されているのは「イラヨイ月夜浜」。「ああ、もうこの曲は俺の手を離れたな。独り立ちしたのだな。」ウッサン、サビサン(嬉しくもあり、淋しくもあり)という気持ちとともに、目を合わせずその場を立ち去ったのだとか。
いかにもちょっとシャイな島男らしいエピソード。まあ関西人だったら確実に「それ、ワシの曲やでー。」とヒョイヒョイ近づいて、三線奪い取ってイントロからフルコーラス唄うね(爆笑)。
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アンコールは2曲。1曲目は「お正月用です」という賑やかな曲。サンデー氏が退いて2曲目は「とぅばらーま」。実はこれが僕にとって“初とぅばらーま”だった。
感動した。入口で販売していたCD、「とぅばらーま」の入った「我が島ぬうた」を迷わず購入した。今日の日付を入れて、ご本人のサインを頂戴した*1