首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

川奈に行きたい

昨日までの荒れた天気から一転、那覇はさわやかな空。

ダイキンオーキッドが終わったら、ゴルフには最高の季節になる。昨日の最終ラウンド、森田理香子の渾身の直ドラを見せられ、あらためてゴルフはいいなと実感。

思えば、一番ゴルフにのめり込んでいたのは2年ほど前だ。毎週2ラウンドはしていたその勢いで、3月中旬のまさにこの時期、「合宿」と称して会社の同僚と本土に遠征した。

せっかく行くなら、と選んだのは、言わずと知れたゴルフの聖地、川奈ホテル・富士コース。カネには糸目をつけず、宿泊付きプランを申し込んだ。

羽田からレンタカーを駆り、お昼過ぎには早々に到着。急いだのには理由がある。練習グリーンが使えるからだ。憧れの川奈の芝。日が暮れるまで、時間を忘れてボールを転がした。

もうこれだけで幸せ。焼肉屋にいって、つけ出しのキムチを食べたら、それがもう仰天の旨さだった、という感じ。これだと、ロースとカルビが出てきたらどうなるのだろう、そう思うぐらい楽しかった。

夕食は高いし、男二人でフルコースのフレンチというのもなんだから、ということで近くの海鮮どんぶりの店へ。ワシワシと飯をかき込んだ。ああ、幸せだ。

ホテルのロビーは重厚な雰囲気だ。暖炉の上には川奈のエンブレムが堂々掲げられている。明日のラウンドに備えて早く休む客が多いのか、夜が更けるほど一層静かになる。

ロビーの隅に、ヤマハのグランドピアノが据えられていた。弾いてみたいな。今は誰もいないし。通りかかったホテルマンにお願いしてみた。「ちょっと弾いていいですか?」

まさか「もちろんどうぞ。お好きなだけ。」といわれるとは。「明日のラウンドに差し支えないようにしてくださいね。」と添えるところが何とも洒落ている。はい、1曲弾いたらすぐに部屋に戻ります。

期待はしていなかったが、調律もきっちりされている。ピアノが飾りの置物でないところがいい。天井が高いからなのか、床のじゅうたんが厚いからなのか、小さく弾いても素晴らしい残響。めちゃくちゃ気持ちがいい。最高の大人の遊び場だな、ここは。

弾き終えると、遠くのソファーから拍手が。ひと組の老夫婦がいらっしゃったようだ。「失礼しました。」といってピアノの蓋を閉じた。ご夫人から「いつもここで弾かれているのですか?」と尋ねられた。まさか。「いえ、明日の朝一番でラウンドするんです。微妙なタッチの練習です。」と答え、みんなで笑った。

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翌日は強い風だった。1番の打ち下ろし、アゲンストにこすり球のフェードは全く通用しなかった。攻略を練りまくった3番も左にOB。もう叩きまくりで、すっかり意気消沈。「これが川奈か」

せっかく来たのだから。沖縄にはないランチタイムで、折れかけた気持ちを立て直した。灯台に向かって打ちあげる11番の名物ホール、チップインでパーを拾って気分が乗った。

ジャンボ尾崎が2発連続でOBを叩き込んだ、これまた名物の海沿い15番。はるかに大島の姿が浮かぶ。ここで前の4人組に追いついた。こちらは2サム。「お先にどうぞ。」といわれ、ギャラリーが見守るなかドライバーを握るはめに。

ここまでの14ホールで僕の球筋を理解したキャディ氏、「崖沿いのあの木を越すイメージで打ってください」と耳打ちしてくれた。「オッケー。じゃあいきまーす。」と軽く返事してアドレスした。

崖沿いは球は出た。そして海方向からの斜めの追い風に乗り、フェアウェイど真ん中に落ちた。「ナイスショット」の拍手。ああ、もう最高の気分。

もうあと数ホールで終わってしまう。またまた名物の16番砲台グリーンは右に外した。はずしても、崖の下まで球が落ちても、それがまた楽しい。グリーン面が全く見えない小山の頂上へのアプローチ。登山してみると、これがまたピタッと寄っているからたまらない。

最終18番は、ホテルに向かって打ちあげていくミドルホール。フジサンケイレディスではスタートホールに使用される、何回も中継のカメラを通して見たお馴染みの眺めだ。ああ、本当にもう終わってしまうのか。

ティショットはフェアウェイの左へ。そこからユーティリティで大きめに高く打ちだした球は、有終の美を飾る2オン。同僚は手前のアリソンバンカーで悪戦苦闘中。しかし川奈だと「それもまた楽しそう。」と思えるから不思議だ。

バーディパットは外したが、納得のパーでホールアウト。同僚は失敗しても逃げず、ついにアリソンバンカーからグリーンに乗せた。叩いてもニコニコだ。わかるで、その気持ち。
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「1年に1度はここでやりたいな。今年はここまで成長しました、といって川奈先生のテストを受けるのだ。」「キムチも美味かったけど、カルビはさらに最高だった。肉1枚でビール5杯はいける。」東京へ向かうレンタカーの中で、夢心地でそう話をしたものだ。

あっという間に2年が過ぎた。暗黒の銀行生活で心の余裕はなくなり、ゴルフへの情熱も失われていった。

人心荒み切った最低の銀行を見切って間もなく8カ月。煤にまみれた心を磨いて、錆びてしまったゴルフの腕を磨いて、再びあのゴルフの聖地へ。

ああ、また川奈に行きたい。