ティーヌン
何年振りだろう。ともかくこの店には相当の思い出がある。なにしろ開店した頃から世話になっている。付き合いはもう20年近くになるだろう。
当時、まだパクチー(香草)はなかなか手に入らなかった。形ばかり、ほんの数枚だけしか入れてくれないエスニック料理店が多かったなか、この店だけは違った。「パクチー大盛りで」というと小鉢いっぱいに盛ってくれた。
注文するのはもちろんトムヤムラーメン。この店が発祥だと僕は思っている。トムヤム・クンでなくても十分。エビよりもデファクトのチャーシューの方がずっと満足感が高い。
しかも、この中華麺が素晴らしい。ビーフンよりもスープが絡みやすいからだろうか、麺を口に運んだ後のバランスがとてもいい。
この店が立派なのは、どの席にもちゃんと「クルワンポン」がセッティングされているところ。
「クルワンポン」と呼ばれるタイ料理の4種の神器。粉唐辛子(プリック・ポン)、唐辛子酢(ナム・ソム・プリック)、ナンプラー、そしてグラニュー糖。器はショボイが、中身は一切の妥協なし。
トムヤムラーメンに合うのは、もちろん唐辛子酢だ。これが王道。すこし味が薄いときにはナンプラーを足す。これも定石。そして僕の場合はお砂糖が隠し味。これがなんともいい感じで味を深めるのだ。
パクチーをバッサバサ加えながら食べると、もう額から汗がこぼれ落ちる。器が空になった頃には気分は完全にバンコク。
店は相変わらず繁盛していた。聞こえるのは外国語ばかり。日本人以外のお客さんが非常に多いことに気づく。早稲田がずいぶん国際化したのか。それともこの街では日本人の影が薄くなったのか。