首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

『大いなる沈黙へ』

『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』(原題:DIE GROSSE STILLE, 英題:INTO GREAT SILENCE)を観る。

シャルトルーズといえば、あのフランスの薬草酒。少しカクテルを勉強したことがある人なら誰でも知っている定番リキュールだ。

僕はフランスの薬草酒は好んで飲む。食前ならペルノーか緑のシャルトルーズ、La Chartreuse verte。気分が高まる。食後なら黄色いシャルトルーズ、La Chartreuse jauneをストレートで少し。最高の食後酒だ、こんな安いのに。

修道院で作られた酒だというのも有名な話だ。バター飴、バタークッキーで知られる函館のトラピスト修道院と同じだな。キリスト教には何の知識もないが、食いしん坊だから知っているというだけ。

この修道院を取り上げた映画が桜坂劇場で上映されていることを知った。手にしたチラシ、その文面がまたいい。

グランド・シャルトルーズはフランスアルプス山脈に建つ伝説的な修道院。これまで内部が明かされたことがなかった。
1984年に撮影を申請、16年後に扉が開かれる。差しだされた条件は音楽なし、ナレーションなし、照明なし、中に入れるのは監督一人のみ。
そして5年後、完成した映画は大きな反響を巻き起こす。

何だかこの映像の雰囲気はどこかで味わったことがある。この人たちの表情はどこかで見たことがある。そう、思い出したのはずっと昔のNHKドキュメンタリー。比叡山の千日回峰行を追った番組だ。

苦痛な行(ぎょう)。世俗にまみれた人間には、到底耐えられそうにない生活。修道士の表情は決して豊かだとはいえない。言葉は悪いが、受刑者や精神病棟患者のように表情は薄い。

しかしその乏しい表情から、明らかに幸せが読み取れるのだ。比叡山の僧と明らかに共通点がある。自分の信じた道をひたすら進んでいける喜び。自分の望んだ世界にただただ没入できる喜び。ああ、本当に幸せなのだろうな。

この人たちは、どう死に向き合っているのだろう。いったいどんな風に死を迎えるのだろう。途中からそんな興味がわいた。

ほんの一瞬だけ、死期迫ったような修道士の姿が映った。ああ、この修道院のどこかで死んでいくのだ。

ならば、きっと幸せだろうな。