首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

取引先に関する一部報道

沖縄三越の閉店騒動。県民の心を大きく揺さぶっている。

14日朝、地元紙(沖縄タイムス)がすっぱ抜いた記事*1の与えた衝撃は大きかった。僕もこの記事には思うところがあり、その日のうちに「沖縄三越・閉店へ」を書いた。

翌日、あわててもう一つの地元紙(琉球新報)が追従記事を掲載*2。ライバル紙にすっぱ抜かれた焦りからか、のっけからかなり踏み込んだ内容となっている。

具体的な譲渡先として「デパートリウボウ」の名前が記されていた。へー、そうなのか。

  • 沖縄三越は2004年にも多額の借入金により経営が悪化。金融機関主導で新生沖縄三越として事業再生を進めてきた。だが債務返済のめどが立たず、本体の三越(現三越伊勢丹ホールディングス)との商標使用契約が14年9月末で終了することもあり、事業継続を断念した。
  • 沖縄三越が運営する「那覇空港の空港売店」「豊崎マイキッチン」「ホテルJALシティ那覇のJALコーチ事業」の3事業もリウボウが10月1日から運営する。

ここまで断定調で書いて、はたして大丈夫なのかね(笑)。本日(5月17日)現在、沖縄三越はこの報道に関する正式なコメントは出していないようだ。少なくとも、ホームページでは全く触れられていない。

関係者の動揺は推して知るべしだ。県を代表する小売業なのだから、影響をうける取引先は多い。今後の帰趨によっては、深刻なダメージを受ける企業もあるだろう。

特に従業員がかわいそうだ。長年ひいきにしてきた常連客も気の毒だ。「沖縄三越の閉店方針が報じられた14日、従業員に動揺が広がった。『今後の仕事もある。ちゃんと説明してほしい』。買い物客には、泣きながら訪れる人もいたという。」と地元紙も報じている。*3

このようなすっぱ抜き報道がされたとき、だんまりを決め込むのは良くない。広報担当者が何らかのコメントをするか、「一部報道について」云々というプレスを公表するか。いずれにせよ、従業員、取引先、顧客など動揺しているステークホルダーに対し、何らかのアナウンスをするのが良いと思うのだが。
________

そんななか、不思議なプレスリリースを発見した*4。この騒動に関して、メインバンクである沖縄銀行がステートメントを出していたのか。知らなかった。

  • 本日当行取引先である株式会社沖縄三越に対する一部報道がございました。同社に関しては、かねてより事業再生に取組んでおりますが、現在関係各所と当該取り組みについて調整中であり、現時点で公表すべき事実はございません。

「取引先に関する一部報道について」と題されている。事実が明確ではない段階で、しかも報道の対象となった企業(今回は沖縄三越)がコメントしていない段階で、メインバンクがこの種のプレスリリースを出すのは珍しいのではないか。僕もアナリストとして数々のプレスリリースを見てきたが、このようなケースは見たことがない。

あくまでも、報道対象となった企業が「当社に関する一部報道がございました。」という形で発表するのが筋だ。メインバンクが先走って、単独で、しかもほとんど中身のないリリースを出す意味が僕にはさっぱりわからない。

  • なお、当行は同社に対して貸出金等1,661百万円の債権を有しておりますが、担保・引当金等により既に全額保全されており、平成26年3月期業績への影響はございません。

以上

今回の報道が「平成26年3月期業績」に影響しないことぐらい、誰にだってわかる。だっていまは平成26年5月じゃないか(爆笑)。平成27年3月期(今期)ならともかく、この騒動が前期の数字に影響するわけがない。*5

まあそれはさておき、注目されるべきは、「担保・引当金等により既に全額保全されており」、「業績への影響はございません。」という下りだ。こういうフレーズをしゃあしゃあと公表する同行のセンスに、僕は強烈な違和感を感じる。

担保・引当金等によって全額保全されている、という記述。これは、もうすでに倒産は見越しています、という意味なのか。それとも仮に倒産しても追加的な損失は発生しません、大丈夫ですよ、という意味なのか。いずれにせよ、かなり重い表現だ。近々、何らかの破たん処理が行われることを想起せざるを得ない。メインバンクが、情報も不足しているこの段階で、こんな重い表現をしていいのだろうか。

明確に読み取れるのは、この銀行の「自行の業績が重要」という姿勢だ。株主総会を間近に控え、株価が下がることが心配なのだ。地域のことは二の次。実際、このプレスリリースも、同行株式が上場している東京証券取引所の「適時開示資料」の形式で出されている。大切な大切な株主様へのメッセージ、というわけか。

ともかくこのリリースは奇妙であり、なんとも不快だ。なぜだろう。読んでいて、沖縄三越に対する銀行の「上から目線」を感じるのは僕だけだろうか。

「同社に関しては、かねてより事業再生に取り組んでおりますが、」という表現。主語のない奇妙な文章だが、「同社に関しては」と記されている以上、そして適時開示資料というこのリリースの性質上、補うべき主語は「当行(沖縄銀行)」なのだろう*6。だとすれば、このメインバンクは、自分だけが「事業再生」に取り組んでいると思っているということになる。

事業再生というのは銀行だけが取り組むものではない。当事者である沖縄三越の従業員はもちろん、自行以外の債権者、取引先や顧客、そして地域経済も含めてあらゆるステークホルダーが力を合わせて成し遂げていくものだ。

コンサルティング機能の強化、地元への貢献を大々的に謳っているこの銀行。しかしこのような尊大な姿勢を続ける限り、この銀行の旗振りで事業再生を成功させるのは難しいのではないか。自行の損得しか考えない銀行、自分の出世しか頭にない銀行員は地域の人心をつかむことはできない。県民に感謝されるような事業再生は、この銀行主導では難しいかもしれないな。もう評判は知れ渡っている。

こういう慌ただしい状況で出されたリリースにこそ、銀行の本質が表れるのだ。本当に面白い。

*1:沖縄タイムス「沖縄三越閉店へ 経営不振で9月末に」2014/5/14

*2:琉球新報「沖縄三越、9月に閉店 リウボウ継承で調整」2014/5/15

*3:沖縄タイムス「沖縄三越:従業員混乱、商店街も影響懸念」2014/5/15

*4:沖縄銀行「当行取引先に対する一部報道について」2014/5/14

*5:もし影響するならそれはそれで大変なことだが、それは別の問題として扱われるべき話だ。

*6:英文のリリースがあればこの点は明確になるのだが、5月17日現在公表されていない。