首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

監督・ザッケローニ

今日の仕事は調子が上がらなかった。終日なんともフワフワしていて、以前から予定されていた午後一番のインタビューもいまひとつ精彩を欠いた受け答えとなってしまった。

ただ、いつも冷静かつ鋭い質問を浴びせるインタビュアーたち(30代日本人男性2人)も、今日は心なしか切れを欠いていたように思える。そう、間違いなく僕らは昨夜10時過ぎから同じ番組を見て、大量に分泌したアドレナリンの影響で3時過ぎまで眠れなかったのだ。

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昨夜の日韓戦ほど緊張感のある試合は、少なくとも2、3年は観れないのではないか。前半に見せた日本の100点満点の気迫と技、後半に見せられた韓国の締め上げるような粘りと力。延長後半ロスタイムに韓国が同点ゴールを決めた時、コメンテーターは「これが日韓戦なんです」とうめいた。

なんとも嫌な雰囲気で突入したPK戦。「うん、いい試合を見せてもろた。これでもう満足。」と“自分自身に言い訳モード”になりつつあったが(すんません)、結果はご存じの通り。いきなり2本連続で韓国を阻んだ「日本の新・守護神」川島の活躍によって、深夜の大ガッツポーズ&ビールもう一缶で祝杯とあいなった(わはは)。

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勝負が決して、アナウンサーの「地に足のつかない実況」とコメンテーターの「妙に冷静ぶった批評」のバランスの悪さに軽いムカつきを感じつつも、僕は中継の画面に引き込まれた。ザッケローニは選手たちの歓喜の輪には加わらず、表情を崩さないまま別の方向に歩きだしたのだ。向かった先にはチョ・グァンレ・韓国監督。2人は肩を抱き合い、がっちりと握手を交わしたのだった。その数分前、韓国3人目のキッカーがPKをゴール枠右に外した時、肩を組んで見守る日本ベンチは勝利を確信したような歓声を上げたが、その列の一番左端にいたザッケローニだけ全く表情を変えなかったのも僕は見逃していなかった。

さらに今朝、会社に向かうゆいレールの中で、試合後のザッケローニの公式会見の内容を知った。

「ミスをしないゴールキーパーはいない。そんなゴールキーパーなんて存在しないんだよ」と、このイタリア人は語った。

「2、3日前、私はカワシマに、『お前のことを深く信頼している』と話した。今日、私は彼にもう一度そういったんだよ。そして彼は、試合の最初から最後まで、私が期待していたのを遥かに上回る仕事をやってくれたんだ。」*1

ボスに言われて、川島は心の底から燃えたのだろう。実は試合前のメンバー予想、メディアはゴールキーパーのポジションは川島と控えの西川とで割れていた。前の試合(カタール戦)で致命的な判断ミスを犯して2点を失った川島。その前の試合(サウジアラビア戦)で西川は今回のアジアカップで日本唯一の零封を演じている。しかもその試合、控えの西川が出場できたのは、さらにその前の試合(シリア戦)で川島自身がレッドカードを食らったからだった。そう、川島は崖っぷちにいたのだ。

「サラリーマンが上司にかけてもらいたい言葉・ナンバーワン」…あるブログではそう書かれていた。東京で働いている時なら、僕もそんなふうに受け止めたかもしれない、自分の上司の出来の悪さに悲観して。しかし、僕もさすがに歳をとったのかもしれない。いや、たった2人とはいえ直属の部下を預かり、小さいとはいえ2つのプロジェクトを運営する責任があるからだと思う。今朝は逆の方向から考えてしまっていた。

「全社が注目しているプロジェクトにおいて、何度も致命的な失敗したメンバー・部下に対して、俺はこんな言葉をかけられるだろうか。信頼してチャンスを与え続けられるだろうか。」

昨夜の試合直後、本田圭佑はインタビューを受ける直前にザッケローニとすれ違った際、肩を抱かれながら二言三言、笑顔で言葉をかけられていた。「いま、監督からなんて話されたんですか?」「いや、今日とてもよかったよ、と。監督は僕に自信をもたせてくれるんで。毎試合自信を持って試合に臨めるので、僕にとって力になっています。」なんでも、延長前半のPKを外した(結果はこぼれ球を細貝が押し込んでゴール)にもかかわらずPKの最初の蹴り手を志願した本田に対し、ザッケローニは即座にOKを出したのだとか。*2今大会の日本、敵にリードされていてもなんだか追いつき、さらに逆転できるような迫力に満ちているように見えるが、その裏にはザッケローニが与えたこんな力があるのかもしれない。

岡田監督が率いる日本もなんだか隣の兄ちゃんががんばっているようで、危なっかしくて楽しかったが、ザッケローニがタクトを振る日本、指揮官のお手本としてちょっと別次元の面白みを感じていけそうだ。たとえ土曜日のオーストラリア戦で負けたとしても。(←また“自分自身に言い訳モード”)

*1:“There are no goalkeepers who do not make mistakes, they do not exist,” said the Italian. “A couple of days ago I told Kawashima I trust him very much. I told him that again today and throughout the game he performed much better than I expected.”[http://www.the-afc.com/en/afc-asian-cup-news/32934-japan-reaction:title]

*2:実際のところ、キッカーの順番は試合前に決めていたらしい。以下、公式会見後の囲み取材。「(PK戦は監督が順番を決めたのか?)まあ、カタール戦の前に実は決めていた。」