首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

地銀の経営統合

東京都民銀行八千代銀行が経営統合に向けて交渉中という日経新聞のスクープ。この記事、遠く離れた沖縄県内の金融機関にとって、無関係な話ではないように思われる。間接的ではあるが、将来的に少なからぬ影響を受けるのではないか。

といっても、沖縄の地方銀行が彼らのグループに入るとか、県内の地方銀行間でこのような経営統合が起こるということではない。あくまでも「間接的」な影響だ。各行が採用している基幹システム(勘定系システム)を通じた、間接的な影響だ。

複雑化・高度化を続ける基幹システム(勘定系システム)を自行で開発・運営し切れる地方銀行はいまや皆無に近い。開発・運営する能力を保有・維持することがそもそも地方銀行では極めて難しい、また血のにじむような努力を続けてその能力を持ち合わせていたとしても地方銀行の業務規模では収益性とのバランスを著しく欠く、というのが実情だ。このため、能力を集約し、効率性を高めるべく他行と共同で開発・運営するという選択が主流となっている。具体的には、基幹システム(勘定系システム)の共同利用サービスに参加する、あるいはシステムベンダーのパッケージを導入する、という形になる。

都民銀行NTTデータの提供するサービス「STELLA CUBE」、八千代銀行NECと共同開発したパッケージ「BankingWeb21」を採用している。都民銀行八千代銀行持ち株会社の傘下に入るということであるから、ただちに両行のシステムが統合されことにならないかもしれない。ただし、経営統合の大きな目的のひとつは、システム統合による効率化というのがセオリーだ。遠くない将来、両行のシステムは統合されることになるのは間違いない。システムが統合される場合、3つのパターンが想定される。

  1. 都民銀行が加入している共同化システム、NTTデータ「STELLA CUBE」に八千代銀行が合流参加する
  2. 八千代銀行が採用しているNEC「BankingWeb21」に都民銀行のシステムを移行させる
  3. NTTデータでもNECでもない、他の共同化システムに同時に合流する


既存の共同化グループに合流せず、2行が独自にシステム開発していく可能性は皆無だ。また3.のケース、すなわち現在採用・運営しているNTTデータもしくはNEC以外のグループに白地で参加するのは、NTTデータNECの2社ともが劣悪でないかぎり可能性は低いだろう。ということで、おのずと1.もしくは2.のパターンに絞られる。

問題は、選ばれるのはNTTデータか、NECかということだ。八千代銀行は2003年に「BankingWeb21」を、都民銀行は2011年に「STELLA CUBE」を運営開始している。両行は“キックオフ・ユーザー”、すなわち、海のものとも山のものとも分からなかった新規システムを、ベンダーと苦労して立ち上げを成功させたパイオニアであるという点で共通している。立ち上げたシステムには思い入れが深いはずだ。基本的には自行のシステムをそのまま生かしたい、と。

しかし、八千代銀行すなわちNEC「BankingWeb21」が選択される可能性は低いのではないか。以下に理由を2つ記してみる。

  • 既存の基幹システム(勘定系システム)が劣化、陳腐化八千代銀行NEC「BankingWeb21」を導入して10年が経過している。制度変更への対応、新商品の導入など、機能の追加によるシステムの複雑化がこの10年間で進んでおり、さまざまな問題が顕在化してきているはずだ。もっとも、基幹システムにおいては安定稼働が何よりも重要であり、10年の(安定した)稼働実績というのは高く評価すべきではある。それにも増して、ここ10年のITの進化は大きく、10年を経過した時点でシステムの切り替えを検討する銀行が少なからず存在することも確かだ。都民銀行は2011年に「STELLA CUBE」を導入。新規開発であったにもかかわらず、導入と運営において大きなトラブルがあったとの報道はない。NEC「BankingWeb21」導入にあたっての八千代銀行の強いられた苦労は業界でも語り草になっている。あえて八千代銀行へのシステムに移行する合理性は見いだせない。
  • 今後のシステムの開発・展開力が劣後NTTデータ「STELLA CUBE」は、2011年の都民銀行を皮切りに但馬銀行富山銀行長野銀行神奈川銀行東北銀行仙台銀行が利用開始、最近でも山形のきらやか銀行も参加を表明している。「STELLA CUBE」は8銀行であるが、このベースとなっているバンキング・アプリケーション「BeSTA」を採用している銀行は「地銀共同センター」参加の15銀行など28行におよぶ。一方、NEC「BankingWeb21」は八千代銀行三重銀行(2003年2月採用発表、2010年5月5日稼働)の2行のみが稼働中。このほか東京スター銀行沖縄銀行が導入を決定している。なお、八千代銀行の苦労(稼働時期の大幅な延期と稼働後のトラブル)を見て導入を撤回した銀行が7行にも上っている。。「能力を集約し、効率性を高めるために他行と共同で開発・運営する」というシステム共同化の目的に照らせば、多くの銀行が参加しているという事実の持つ価値は大きい。こちらも八千代銀行へのシステムに移行する合理性は見いだせない。


そのNEC「BankingWeb21」だが、県内の沖縄銀行が基幹システム(勘定系システム)として2015年1月4日に更改・導入するとプレスリリースしている。システム更改のねらいのひとつとして、「経営の効率化」が挙げられている。

経営の効率化: 制度対応など「BankingWeb21」の利用各行に共通な開発案件については、共通開発が可能なスキームによるシステム開発コストの削減を見込んでおり(共同化システム並みのコスト削減を目指します)、当行の経営戦略の具現化と合わせて、経営資源、経営基盤の一層の強化を図ってまいります。

沖縄銀行「勘定系システムの更改に関するお知らせ」 2013年06月28日

八千代銀行NTTデータ陣営に与すると、残るのは三重銀行だけである。東京スター銀行は2013年7月、台湾大手行(中国信託商業銀行:チャイナトラスト)に完全買収されてしまい、今後のシステム開発の旅路は順風満帆とはいくまい。とすると、最悪のケースでは沖縄銀行はたった2行で共同化戦線を張ることになる。二つの銀行による共同システム開発。客観的に見て、同行が目指しているという「共同化システム並み」のコスト削減は難しいのではないか。しかも、共通開発されるという案件の中身についても、NTTデータをはじめとする他の大陣営に比し、質・量ともに劣る可能性が高いのではないだろうか。やはり“大手有力地銀”でなければ得られない情報というものはあるから。

本土の人々が当たり前のように利用している、便利で、かつ安定した金融サービス。沖縄県民、少なくとも僕はこれをいつかは享受したいと願っている。基幹システム(勘定系システム)への取り組みは地方銀行経営の根幹にかかわるものであり、その帰趨は県民生活にも直接影響する。今後の動向には注目していきたい。