首里に住まう男

沖縄の古都、首里に移り住んだ関西人の表の顔

糸満屋のネーネー

いま取り組んでいるシステム導入プロジェクト。要件定義の最終局面、東京からわざわざ担当者が来沖して下さった。

午後を通してみっちりミーティング。そして夕方5時、ついに定義が固まった。プロジェクト発注者としては大きな到達だ。ここからは開発側のフェーズになる。

ここまでの御礼とここからの期待を込めて、担当者さんを囲んで一席設けることを提案した。しかし、当社側のメンバーはみな多忙という。結局、僕と担当者さん、二人だけの差し飲みに。

誠意をこめて御接待いたしましょう。ご希望をうかがうに、「美味しい沖縄料理が食べたい」とおっしゃる。しかも、できればディープなところで、と。

ならば、もう糸満屋しかない。予約の電話を入れる。いつものネーネーではない声。ともかく2人分の席は確保できた。名前を名乗り、20分後には着きますと告げて電話を切った。

激しく渋滞する夕方の開南、ボロボロのタクシーは中学校沿いの裏道を慣れた感じですり抜ける。ぴったり20分で店の前に到着した。おみごと。

それにしてもずいぶんご無沙汰の糸満屋だ。渋い佇まいは全く変わらない。初めてモノクロームで撮りたい気分になった。うん、なかなかいい感じじゃないか。

ドアを開けて入店。名前を告げたら、一番奥のテーブルに通された。この席は落ち着いて飲めていい。「今日はネーネーはお休みですかね?」

「あー、もうずいぶん前に辞めましたよ。去年の春ですね。」ちょっと若めの店員さんの返答に言葉を失う。全く予期していなかった。「え、なんで?どうして?」そんな気持ちももちろんあったが、それ以上のことを訊ねるのは止めにした。

メニューも料理も以前のままだった。酢味噌和えも、ニガナ和えも、そして「魚とイカのてんぷら」も、全くこれまで通りの美味さだった。担当者さんもこれはすごいと大興奮、オリオン生ビールを立て続けに4杯平らげた。もちろんそのあとは、米島酒造の「久米島」の四合瓶を注文。締めのソーメンチャンプルー、その美味しさを改めて認識した。

沖縄の銀行を辞めた日、この店に来た。「辞めてよかったよ。」そう言って背中をポンと叩いてくれたネーネー。どこかで元気で暮らしていることを願う。